漢詩「初夏即事」(七言律詩)

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●原文:

 初夏偶成  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

日 午 窺 門 雨 晴 初  含 露 南 薰 吹 草 廬

偏 走 麤 毫 吟 一 句  猶 懷 病 者 寄 雙 魚

殘 春 動 靜 無 衰 矣  首 夏 心 身 欲 晏 如

人 閒 刻 下 風 雲 急  萬 綠 參 差 樹 影 舒


●書き下し文:

 題:「初夏(しよか) 偶成(ぐうせい)」

日午(にちご) 門(もん)を窺(うかが)ふ雨(あめ) 晴(は)るるの初(はじ)め
露(つゆ)を含(ふく)む南薰(なんくん) 草廬(さうろ)を吹(ふ)く

偏(ひとへ)に麤毫(そがう)を走(はし)らせて一句(いつく)を吟(ぎん)じ
猶(なほ)も病者(びやうしや)を懷(おも)ひて雙魚(さうぎよ)を寄(よ)す

殘春(ざんしゆん)の動靜(どうせい) 衰(おとろ)ふること無(な)きも
首夏(しゆか)の心身(しんしん) 晏如(あんじよ)たらんと欲(ほつ)す

人閒(じんかん) 刻下(こくか) 風雲(ふううん) 急(きふ)に
萬綠(ばんりよく) 參差(しんし) 樹影(じゆえい) 舒(の)ぶ

「晴」の新字体は「晴」、「薰」の新字体は「薫」、「懷」の新字体は「懐」、「雙」の新字体は「双」、「殘」の新字体は「残」、「靜」の新字体は「静」、「閒」の新字体は「間」、「萬」の新字体は「万」、「綠」の新字体は「緑」、「參」の新字体は「参」
「窺(うかが)ふ」の新仮名遣いは「窺(うかが)う」
「草(さう)」の新仮名遣いは「草(そう)」
「偏(ひとへ)に」の新仮名遣いは「偏(ひとえ)に」
「毫(がう)」の新仮名遣いは「毫(ごう)」
「猶(なほ)も」の新仮名遣いは「猶(なお)も」
「病(びやう)」の新仮名遣いは「病(びよう)」
「雙(さう)」の新仮名遣いは「雙(そう)」
「衰(おとろ)ふる」の新仮名遣いは「衰(おとろ)うる」
「刻下(こくか)」の新仮名遣いは「刻下(こつか)」
「急(きふ)」の新仮名遣いは「急(きゆう)」


●現代語訳:

 題:「初夏の頃に偶然出来た漢詩です」

正午に門を窺うと雨が晴れた最初の頃でした。
露を含んだ初夏の爽やかな南風が、草葺きの粗末な小屋に吹いていました。

ひたすらに粗末な筆を走らせて詩歌の一句を口ずさみ、
猶も病人のことを思って手紙を送っていました。

春の終わりの頃の立ち居振る舞いは、衰える様子は無かったけれども、
初夏の頃の心身も、安らかで落ち着いていることを願っていました。

世の中では現在、急に今にも変事が起こりそうな形勢になっていて、
一面の緑は入り混じって、樹木の影を伸ばしていました。


●語注:

※偶成(ぐうせい):偶然出来た詩のことです。

※日午(にちご):真昼、正午のことです。

※南薫(南薰)(なんくん):「薫風(くんぷう)」、つまり初夏の頃に吹く爽やかな南風のことです。

※草廬(そうろ(さうろ)):草葺きの廬(いおり:粗末な小屋)のことで、自分の家を謙遜して言う表現です。

※麤毫(そごう(そがう)):粗末な筆のことです。自分の筆や自分の書いた文章を謙遜する表現です。

※病者(びようしや(びやうしや))(小書き文字を使うと「びょうしゃ」):病人のことです。

※双魚(雙魚)(そうぎよ(さうぎよ))(小書き文字を使うと「そうぎょ」):「双鯉(雙鯉)(そうり(さうり))」とも言います。手紙のことです。唐(とう)の時代は手紙を送る際に二匹の鯉の形に折り曲げたことからこう名付けています。また、昔の楽府(がふ:前漢(ぜんかん)の武帝(ぶてい)の頃に設けられた音楽を司る役所のことで、ここではその楽府(がふ)に採集された詩のことを指します)の「飲馬長城窟行(いんばちょうじょうくつこう)」に出てくる言葉で、遠方から来た客が二匹の鯉を贈り、その鯉を調理すると中から絹の布に書いた手紙があった、という故事があります。

※残春(殘春)(ざんしゆん):春の終わりのことです。

※動静(動靜)(どうせい):立ち居振る舞いのことです。

※首夏(しゆか)(小書き文字を使うと「しゅか」):初夏のことです。

※晏如(あんじよ)(小書き文字を使うと「あんじょ」):安らかで落ち着いている様子を示します。

※人間(人閒)(じんかん):ここでは、世間、世の中のことです。

※刻下(こくか):目下、現在のことです。

※風雲(ふううん):ここでは、今にも変事が起こりそうな形勢(けいせい:情勢のこと)のことです。

※万緑(萬綠)(ばんりよく)(小書き文字を使うと「ばんりょく」):一面の緑のことです。

※参差(參差)(しんし):互いに入り混じることです。


●解説:

今回は初夏の頃に偶然出来た七言律詩の漢詩です。

この七言律詩は漢詩の会の浪速菅廟吟社(なにわかんびょうぎんしゃ)の五月の課題詩の七言絶句二首を作り、それを組み合わせて七言律詩にしたものです。

一・二・七・八句目は木陰で薫風(くんぷう:初夏の頃に吹く爽やかな南風)が吹いているのを感じる「樹陰薫風(じゅいんくんぷう)」で、三・四・五・六句目は初夏の頃の身の回りの出来事を詠む「初夏即事(しょかそくじ)」です。

友人が再び入院すると聞きましたので、主にそれについての漢詩にしました。体調自体は良さそうなので、無事に回復するようにと願っています。

だんだんと暖かくなってきて、体調も比較的良くて過ごしやすいです。
この先もしっかりと療養しながら頑張っていきます。

次の記事はこの七言律詩で用いた「双魚(雙魚)(そうぎょ)」の元となった楽府(がふ)という前漢(ぜんかん)の武帝(ぶてい)の頃に設けられた音楽を司る役所に採集された詩の一つである「飲馬長城窟行(いんばちょうじょうくつこう)」の翻訳と解説です。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント

  • 美舟

    泥舟さん宛の漢詩のご様子。
    泥舟さん、本当に喜んでました。
    こうして温かくお付合いして下さると、本当に嬉しいです。
    どうぞこれからも良いお付き合いの程、宜しくお願い致します。
    いつも素晴らしいお作品。
    これからも楽しみにしております。
    ご体調はいかがでございますか?
    暖かくなってきて、比較的ご体調は良いご様子。
    嬉しいです!
    くれぐれもお身体ご自愛して下さいませね。
    2016年05月02日 17:59
  • 玄齋(佐村)

    美舟さん、こんばんは。温かいコメントをありがとうございます。

    はい。泥舟さんに喜んでいただけて、とても嬉しいです。
    更に泥舟さんが治療を続けてしっかりと回復されるのを願っています。

    人の心、とりもなおさず私自身の心を漢詩にしていけるように、
    これからも工夫と精進を続けていきます。

    はい。暖かくなってきて、比較的体調が良いです。
    しっかりと療養しつつ、日々の努力を続けていきます。

    漢詩作りと、今は何より『老子』の翻訳と解説、
    次の章もまた多くの文字数になりますが、
    しっかりと完成に向けて進めていきます。

    美舟さんも良い月曜日の夜をお過ごし下さい。
    2016年05月02日 21:47