漢詩「雨中偶成」(七言律詩)

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●原文:

 雨中偶成  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

案 友 禍 災 行 我 鄕  經 旬 霖 雨 汚 泥 程

未 晴 天 色 山 雲 黑  已 散 華 芬 梅 果 黃

稻 苗 受 風 搖 動 靭  人 家 免 害 掃 淸 忙

全 員 無 事 安 心 裏  多 難 近 年 何 日 忘


●書き下し文:

 題:「雨中(うちゆう) 偶成(ぐうせい)」

友(とも)の禍災(くわさい)を案(あん)じて我(わ)が鄕(きやう)に行(ゆ)かば
旬(じゆん)を經(ふ)る霖雨(りんう) 汚泥(をでい)の程(みちのり)

未(いま)だ晴(は)れざる天色(てんしよく) 山雲(さんうん) 黑(くろ)く
已(すで)に散(さん)ずる華芬(くわふん) 梅果(ばいくわ) 黃(き)なり

稻苗(たうべう) 風(かぜ)を受(う)けて搖動(えうどう) 靭(しな)やかに
人家(じんか) 害(がい)を免(まぬか)れて掃淸(さうせい) 忙(いそが)し

全員(ぜんゐん) 無事(ぶじ)にして安心(あんしん)の裏(うち)
多難(たなん)の近年(きんねん) 何(いづ)れの日(ひ)にか忘(わす)れん

「鄕」の新字体は「郷」、「經」の新字体は「経」「晴」の新字体は「晴」、「黑」の新字体は「黒」、「黃」の新字体は「黄」、「稻」の新字体は「稲」、「搖」の新字体は「揺」、「淸」の新字体は「清」
「禍(くわ)」の新仮名遣いは「禍(か)」
「鄕(きやう)」の新仮名遣いは「鄕(きよう)」
「汚(を)」の新仮名遣いは「汚(お)」
「華(くわ)」の新仮名遣いは「華(か)」
「果(くわ)」の新仮名遣いは「果(か)」
「稻苗(たうべう)」の新仮名遣いは「稻苗(とうびよう)」
「搖(えう)」の新仮名遣いは「搖(よう)」
「掃(さう)」の新仮名遣いは「掃(そう)」
「何(いづ)れの」の新仮名遣いは「何(いず)れの」


●現代語訳:

 題:「雨の中、偶然出来た漢詩です」

友人の災害のことを考えて私の故郷に行こうとすると、
十日を経た長雨で泥の道のりになっていました、

まだ空模様は晴れることはなく、山の雲は黒々としていました。
既に花の香りは散っていて、梅の実が黄色く熟していました。

稲の苗は風を受けてしなやかに揺れ動いていて、
民家は被害を免れてお掃除で掃き清めるのに忙しい様子でした。

全員が無事で安心した中で、
多難の近年を、いつの日にか忘れることが出来るでしょうか。
(忘れることは出来ないのです)


●語注:

※偶成(ぐうせい):偶然出来た詩のことです。

※偏(ひとえ(ひとへ))に:ひたすらに、ということです。

※朋友(ほうゆう(ほういう)):友人のことです。

※霖雨(りんう):長雨のことです。

※汚泥(おでい(をでい)):泥のことです。

※天色(てんしよく):空模様のことです。

※華芬(かふん(くわふん)):花の香りのことです。「芬(ふん)」は香りを示します。魏(ぎ)の曹植(そうしょく)の「薤路行(かいろこう)」(『曹子建集(そうしけんしゅう)』巻六)には、次の一節があります。

騁 我 徑 寸 翰  我(わ)が径寸(徑寸)(けいすん)の翰(ふで)を騁(は)せて
流 藻 垂 華 芬  流藻(りゆうそう(りうさう)) 華芬(かふん(くわふん))を垂(た)れん

(現代語訳)
私の直径一寸の筆を思いのままにして、
文章の飾り立てた美しさを広く行き渡らせて、花の香りを滴らせるようにしようと思います。
(天子(てんし:魏(ぎ)の明帝(めいてい:曹叡(そうえい)))に用いられない私は、香り高い文章を後世まで伝えようと思います。)

※梅果(ばいか(ばいくわ)):梅の実のことです。「梅果黃」で句目のみが黄色く熟している様子を示します。

※稲苗(稻苗)(とうびよう(たうべう))(小書き文字を使うと「とうびょう」):稲の苗のことです。

※人家(じんか):民家のことです。

※掃清(掃淸)(そうせい(さうせい)):お掃除をして掃き清めることです。

※安否(あんぴ):安全かどうかということです。

※留意(りゆうい)(小書き文字を使うと「りゅうい」):気を付けることです。

※禍殃(かおう(くわあう)):「災(わざわ)い」、つまり災害のことを示しています。


●解説:

今回は雨の中、偶然出来た漢詩、という題で七言律詩を作りました。

漢詩の会(浪速菅廟吟社(なにわかんびょうぎんしゃ))の六月課題の、雨の中、友人を訪問する「雨中訪友(うちゅうほうゆう)」の七言絶句を作る中で偶然出来た七言律詩です。

(ちなみに、最初に作っていた七言絶句の「雨中訪友(うちゅうほうゆう)」は、この律詩の一句目・二句目・七句目・八句目を用いています。その句から更に三句目と四句目、五句目と六句目の語呂合わせの句である対句(ついく)を作って、こうして七言律詩にしました。)

近年になってから各地で水害の多い日々が続いています。水害の被害が、少しでも小さくなるようにと願うばかりです。

こうして雨の中、友人を訪ねるという漢詩を作っている私自身は車椅子で生活をしていますので、こうした漢詩は想像上のもので、実際には遠くから心配する状況になってしまっているのが心苦しいですが、本当に何が出来るのか、真剣に考えていかなければと最近特に思います。

これからも療養しながらしっかりと頑張っていきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント

  • 泥舟

    こんばんはー
    フェイスブックを先に拝読させていただきました^^
    本当にお疲れ様です。
    七言律詩は私は作ったことがないのですが
    相当に難しそうです。
    私は 隅成でも 無理無理!
    素晴らしい出来だと思います。
    引き続き頑張ってください^^
    2016年06月10日 02:03
  • 玄齋(佐村)

    > 泥舟さん

    こんにちは。温かいコメントをありがとうございます。
    七言律詩、思い返しますと何年かは尻込みしていましたが、
    思い切って作ってみようと思って何とかできた、
    そんなことを思い出します。

    五言律詩から工夫を重ねて、何とか七言律詩に辿り着くことが出来て、
    その時は何より嬉しかったです。
    納得のいく対句が出来た時には何より爽快です。

    その反面、平仄等のミスを発見することもしばしばですので、
    ブログにアップする前に何とか気付いて修正できるように頑張っていきます。

    漢詩以外に出来ることを少しでも増やしていこうと、
    そんな風にも考えさせられました。この部分でも頑張っていきます。

    引き続き泥舟さんの回復を願っています。
    私も療養しながら元気に頑張っていきます。
    良い金曜日の午後をお過ごし下さい。
    2016年06月10日 15:17