漢詩「夏夜偶吟」(七言律詩)と漢詩「吟花」(五言排律)

●原文:

夏夜偶吟 玄齋 佐村 昌哉 大阪市

雲霽月升如玉璧 獨吟詩賦相思夕

禿毫燈下作三多 炎熱暑中巡九貊

排律文詞盡萬全 納涼行歩揃雙屐

芳庭欲眺一人姿 停酒清談娯宴席


●書き下し文:

題:「夏夜(かや) 偶吟(ぐうぎん)」

雲(くも) 霽(は)れて月(つき) 升(のぼ)りて玉璧(ぎよくへき)の如(ごと)くにして
獨(ひと)り詩賦(しふ)を吟(ぎん)ずる相思(さうし)の夕(よる)

禿毫(とくがう) 燈下(とうか) 三多(さんた)を作(な)し
炎熱(えんねつ)の暑中(しよちゆう) 九貊(きうはく)を巡(めぐ)る

排律(はいりつ)の文詞(ぶんし) 萬全(ばんぜん)を盡(つ)くし
納涼(なふりやう)の行步(かうほ) 雙屐(さうげき)を揃(そろ)ふ

芳庭 (はうてい)眺(なが)めんと欲(ほつ)す一人(いちにん)の姿(すがた)
酒(さけ)を停(とど)めて清談(せいだん) 宴席(えんせき)を娯(たの)しむ


●現代語訳:

題:「夏の夜に偶然出来た漢詩です」

雲が晴れて月が升って、まるで上等な美しい宝玉のようであって、
一人、詩と賦(ふ:韻を踏んだ散文)を作る、好きな人を思う夜を過ごしていました。

(「夕(せき)」はここでは夜を指します。(『新字源』P234))

毛先が擦れて小さくなった筆で、灯火の下で三多(さんた:文章の上達のための三条件で、文章を多く読む、多く作る、多く考える。(『新字源』P10 より))を行い、
焼けつくような厳しい暑さの中、都の大通りを巡っているのです。

排律(はいりつ)という漢詩の形式で、万全を尽くして漢詩を作り、
涼みながら歩いて進み、両足の履き物を揃えて歩いていました。

花の咲いた庭を眺めようとする一人の人の姿があって、
酒を止めて風流な話で宴席を楽しんでいました。


●語注:

*三多(さんた):「文章の上達のための三条件で、多く読む、多く作る、多く考える。」(『新字源』P10 )

*炎熱(えんねつ):『漢語大詞典』によると、「炎暑(えんしょ)」、つまり『新字源』P616 によると、「焼けつくような暑さ。厳しい暑さ。」のことです。

*排律(はいりつ):十二句以上の漢詩の形式で、律詩(りっし)の語呂合わせの句である対句(ついく)の部分を四句ずつ加えたものです。以下にその排律(はいりつ)を作りましたので、ご覧下さい。


●原文:

吟花 玄齋 佐村 昌哉 大阪市

衷情文墨上 乘興欲吟花

梅朶怡銀界 冰魂開素葩

山櫻生醉貌 芳意好繁華

菡萏清如玉 薔薇姿足嘉

冬來積雪起 時至苦寒加

東籬披黃菊 壽長陶令家


●書き下し文:

題:「花(はな)を吟(ぎん)ず」

衷情(ちゆうじやう) 文墨(ぶんぼく)の上(うへ)
興(きよう)に乘(じよう)じて花(はな)を吟(ぎん)ぜんと欲(ほつ)す

梅朶(ばいだ) 銀界(ぎんかい)に怡(よろこ)び
冰魂(ひようこん) 素葩(そは)を開(ひら)く

山櫻(さんあう) 醉貌(すいばう)を生(しやう)じ
芳意(はうい) 繁華(はんくわ)を好(この)む

菡萏(かんたん) 清(きよ)きこと玉(ぎよく)の如(ごと)くにして
薔薇(さうび) 姿(すがた) 嘉(よみ)するに足(た)る

冬(ふゆ) 來(きた)りて積雪(せきせつ) 起(お)こり
時(とき) 至(いた)りて苦寒(くかん) 加(くは)はる

東籬(とうり) 黃菊(くわうぎく)を披(ひら)き
壽(いのち) 長(なが)し陶令(たうれい)の家(いへ)


●現代語訳:

題:「花を漢詩に詠みました」

真心を文章の上に著そうと思い、
優れた面白みを感じ、心が花に動かされるのに従って、花を漢詩に詠もうと思います。

梅の枝が、一面雪が真っ白な銀世界に喜び、
白い梅の花の精が、白い花を開くのです。

山の桜が酔ったような顔になって、桜の花をピンク色に染め、
桜の花の心は、華やかさを好んでいました。

蓮(ハス)の花の滑らかな様子は、宝玉のようであって、
薔薇の花の姿は、楽しむのに十分なものでした。

冬がやって来て、積雪が起こってきて、
時が至って、苦しい寒さが加わりました。

すると、東の垣根で黄色い菊の花が開いて、
陶令(とうれい:彭沢県(ほうたくけん)で県令(けんれい:県知事)をしていた東晋(とうしん)の詩人である陶淵明(とうえんめい))の家では、命が長くなりました。


●語注:

*陶令(とうれい(たうれい)):彭沢(ほうたく)で県令(けんれい:県知事)をしていた東晋(とうしん)の詩人である陶淵明(とうえんめい)のことです。姓は陶(とう)、名は潜(せん)、淵明(えんめい)は字(あざな:成人の時に付けられる名)です。

*彭沢(彭澤)(ほうたく(はうたく)):現在の中国の江西省九江市の彭沢県(ほうたくけん:中国では市と県の位置付けは逆で、彭沢県(ほうたくけん)は市と同じ権限を持つ県級市(けんきゅうし)です。)です。

*東籬(とうり):東の垣根のことです。東晋(とうしん)の詩人である陶淵明(とうえんめい)の「飲酒(いんしゅ)二十首」のうちの「其五(其(そ)の五(ご))」に、

採菊東籬下 菊(きく)を採(と)る東籬(とうり)の下(もと)
悠然見南山 悠然(いうぜん)として南山(なんざん)を見(み)る

(現代語訳)菊を摘み取る東の垣根の下で、
ゆったりとした気持ちで南山(なんざん:廬山(ろざん))を見るのです。

*悠然(ゆうぜん(いうぜん)):「ゆったりと落ち着いたさま。のどかなさま。一説に、ははるかなさま。」(『新字源』P374 )

*南山(なんざん):岩波文庫、『陶淵明全集(上)』によると、廬山(ろざん)のことです。更に『漢語大詞典』によりますと、この山は、現在の中国の江西省九江市から南にある山です。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

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