填詞「水龍吟(観輪椅籃球)」(リオデジャネイロパラリンピックの車椅子バスケットボールについての填詞です)

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●原文:

 水龍吟(觀輪椅籃球)  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

 五人練達精英,戰場機敏驅輪椅。一球欲覓,深謀戰術,何重行使。突破防閑,直知空隙,侵攻開始。遂遠方投擲,捕球全力,得三點,爭長技。

 ●

 相異五人能力。損傷程、重輕殊得。重傷支彊,輕傷活躍,其心無忒。感動茲存,知非慈憫,自娯無飾。務髙吟一瞬,欲傳歡悦,願觀愉色。


「,」は句点(くてん:句の切れ目)を示し、
「、」は逗点(とうてん:一句では意味は完結せずに、次の句と共に一つの意味を持ちます。)を示し、
「。」は押韻(おういん:韻を踏む)を示します。


●書き下し文:

 題:「水龍吟(すいりゆうぎん)(輪椅籃球(りんいらんきう)を觀(み)る)」

五人(ごにん) 練達(れんたつ)の精英(せいえい),
戰場(せんぢやう) 機敏(きびん)にして輪椅(りんい)を驅(か)る。

一球(いつきう) 覓(もと)めんと欲(ほつ)し,
深謀(しんぼう) 戰術(せんじゆつ),
何重(なんぢゆう)にも行使(かうし)す。

防閑(ばうかん)を突破(とつぱ)せんと,
直(ただ)ちに空隙(くうげき)を知(し)り,
侵攻(しんこう) 開始(かいし)す。

遂(つひ)に遠方(ゑんぱう)へ投擲(とうてき)し,
捕球(ほきう) 全力(ぜんりよく)にして,
三點(さんてん)を得(え)んと,
長技(ちやうぎ)を爭(あらそ)ふ。

 ●

相(あひ) 異(こと)なる五人(ごにん)の能力(のうりよく)。

損傷(そんしやう)の程(ほど)、
重輕(ぢゆうけい) 得(う)るを殊(こと)にす。

重傷(ぢゆうしやう) 彊(つよ)きを支(ささ)へ,
輕傷(けいしやう) 活躍(くわつやく)し,
其(そ)の心(こころ) 忒(たが)ふこと無(な)し。

感動(かんどう) 茲(ここ)に存(そん)するは,
慈憫(じびん)に非(あら)ざるを知(し)る,
自(おのづか)ら娯(たの)しみて飾(かざ)ること無(な)し。

務(つと)めて一瞬(いつしゆん)を髙吟(かうぎん)し,
歡悦(くわんえつ)を傳(つた)へんと欲(ほつ)し,
愉色(ゆしよく)を觀(み)んことを願(ねが)ふ。

「觀」の新字体は「観」、「戰」の新字体は「戦」、「驅」の新字体は「駆」、「點」の新字体は「点」、「爭」の新字体は「争」、「輕」の新字体は「軽」、「彊」の新字体は「強」、「髙」の新字体は「高」、「歡」の新字体は「歓」、「傳」の新字体は「伝」
「球(きう)」の新仮名遣いは「球(きゆう)」
「場(ぢやう)」の新仮名遣いは「場(じよう)」
「重(ぢゆう)」の新仮名遣いは「重(じゆう)」
「行(かう)」の新仮名遣いは「行(こう)」
「防(ばう)」の新仮名遣いは「防(ぼう)」
「遂(つひ)に」の新仮名遣いは「遂(つい)に」
「遠方(ゑんぱう)」の新仮名遣いは「遠方(えんぽう)」
「長(ちやう)」の新仮名遣いは「長(ちよう)」
「爭(あらそ)ふ」の新仮名遣いは「爭(あらそ)う」
「相(あひ)」の新仮名遣いは「相(あい)」
「傷(しやう)」の新仮名遣いは「傷(しよう)」
「支(ささ)へ」の新仮名遣いは「支(ささ)え」
「活(くわつ)」の新仮名遣いは「活(かつ)」
「忒(たが)ふ」の新仮名遣いは「忒(たが)う」
「自(おのづか)ら」の新仮名遣いは「自(おのずか)ら」
「髙(かう)」の新仮名遣いは「髙(こう)」
「歡(くわん)」の新仮名遣いは「歡(かん)」
「傳(つた)へんと」の新仮名遣いは「傳(つた)えんと」
「願(ねが)ふ」の新仮名遣いは「願(ねが)う」


●現代語訳:

 題:「リオデジャネイロパラリンピックの車椅子バスケットボールを観た時の様子を、宮廷歌謡の替え歌である填詞(てんし)の『水龍吟(すいりゅうぎん)』という、詞譜(しふ:又は詞牌(しはい))という譜面に基づいて詠みました」

 競技によく慣れて上手な、特に優れた五人の人達が、
 戦場(競技の場)で素早く車椅子を走らせていました。

 一球を求めようと思って、
 深い謀(はかりごと)と、戦法を、
 何度も使用していました。

 相手が防いで止めるのを突破しようと、
すぐに隙間のある所を知り、
相手の陣地に攻め込むことを開始しました。

 遂には遠方へボールを投げ、
 全力でボールを捕らえ、
 (スリーポイントシュートで)三点を得ようと、
 その選手達の専門で天下に広く明らかになっている本来の特質を争っていました。

  ●

 選手達五人はお互いに能力が異なっていました。

 選手達の傷付いた程度は、(障害の程度は、)
 重いと軽いとを、異なったものにしていました。

 重症の人は、強い人(軽傷の人)を支え、
 軽傷の人は、活躍するというようにして、
 選手達の心は、違うことが無いのです。

 感動がここにあるのは、
 慈しみ憐れむ気持ちからでは無いことを知るのです。
 自然に楽しんで(言葉や態度を)飾ることが無いのです。

 骨折り苦労して、競技の一瞬を声高く詩歌に吟じ、
 喜び楽しむ様子を伝えることを求め、
 喜びの顔付きを見ることを願うのです。


●語注:

※輪椅籃球(りんいらんきゆう(りんいらんきう))(小書き文字を使うと「りんいらんきゅう」):車椅子バスケットボールのことです。「輪椅(りんい)」は車椅子のことで、「籃球(らんきゆう(らんきう))(小書き文字を使うと「らんきゅう」)」はバスケットボールのことです。(ちなみにバスケットボールは日本語で「籠球(ろうきゆう(ろうきう))(小書き文字を使うと『ろうきゅう』)」とも言います。)

※練達(れんたつ)「物事によく慣れて、じょうずなこと。また、練悉〔れんしつ〕と同じ。」(『新字源』P784)とあり、また、練熟(れんじゆく)(小書き文字を使うと「れんじゅく」)も同じ意味です。(『新字源』P784)

※練悉(れんしつ):「物事に慣れて良く知っている。」(『新字源』P784)

※精英(精英)(せいえい):「特にすぐれたもの。」(『新字源』P763)

※機敏(きびん):「すばやい。てきぱきと事をする。」(『新字源』P525)

※戦術(戰術):ここでは、「戦う方法。戦争のしかた。戦法。」(『新字源』P396)のことです。

※行使(こうし(かうし)):①「おこなう。実行する。」②「使用する。」(『新字源』P897)

※防閑(ぼうかん(ばうかん)):「ふせいでとまる。閑も、防ぐの意。」(『新字源』P1064)

※空隙(くうげき):「すきま。」(『新字源』P740)

※侵攻(しんこう):「他国や他の領地に攻め込むこと。」(Web サイト『goo国語辞書』の「侵攻」の検索結果< http://dictionary.goo.ne.jp/jn/114012/meaning/m0u/%E4%BE%B5%E6E94%BB/ >(アクセス日:平成二十八年九月十二日(月)))

※投擲(とうてき):「投げうつこと。投げること。」(Web サイト『goo国語辞書』の「投擲」の検索結果< http://dictionary.goo.ne.jp/jn/156450/meaning/m0u/%E6 %8A%95%E6%93%82/ >(アクセス日:平成二十八年九月十二日(月)))

※長技(ちようぎ(ちやうぎ))(小書き文字を使うと「ちょうぎ」):「擅長的本領」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Web サイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)、詞彙(しい)」の「長技」の検索結果< http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx >(リンクを防止するために「:(コロン)」は全角にしてあります。)(アクセス日:平成二十八年九月十二日(月))))、つまり、「その人の専門で、天下に広く明らかになっている本来の特質。」のことです。

※擅長(せんちよう(せんちやう))(小書き文字を使うと「せんちょう」):「専門宣揚自己的長處。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Web サイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)、詞彙(しい)」の「擅長」の検索結果(URLは「長技」の場合と同様です。)(アクセス日:平成二十八年九月十二日(月))))、つまり、「専門で天下に広く明らかになっているその人自身の長所。」のことです。

※宣揚(せんよう(せんやう)):「広く天下に明らかにする。」(『新字源』P277)

※本領(ほんりよう(ほんりやう))(小書き文字を使うと「ほんりょう」):「もちまえ。本来の特質。」(『新字源』P487)

※損傷(そんしよう(そんしやう))(小書き文字を使うと「そんしょう」):「きずつく。いたむ。きずつける。」(『新字源』P426)

※慈憫(じびん)(=慈愍(じびん)、慈憐(じりん)):「いつくしみあわれむ。」(『新字源』P381)

※歓悦(歡悦)(かんえつ(くわんえつ)):「喜び楽しむ。」(『新字源』P535)

※高吟(髙吟)(こうぎん(かうぎん)):「声高く詩歌を吟じる。」(『新字源』P1134)

※愉色(ゆしよく)(小書き文字を使うと「ゆしょく」):「喜びの顔つき。にこにこ顔。」(『新字源』P383)


●解説:

 今回は、リオデジャネイロパラリンピックの車椅子バスケットボールについての填詞(てんし:宮廷歌謡の替え歌)を詠みました。填詞(てんし)の詩譜(しふ:又は詞牌(しはい))という譜面は、以前に天神祭を詠んだ時と同じで、水龍吟(すいりゅうぎん)に基づいています。

 車椅子バスケットボールの、障害の程度の軽い人・重い人が支え合って成り立つ、スピーディーで迫力のある試合展開は、それ自体で楽しいもので、そこで得られる感動は、決して慈しみ憐れむ気持ちからでは無いということを填詞(てんし)にすることを主眼に填詞(てんし)を作っていました。

 漢詩や填詞(てんし)を作る際は、その詠む対象をきちんと理解して作ることが大切になります。その理解する過程もとても楽しいものです。これからもしっかりと勉強を続けながら、それを漢詩作りや填詞(てんし)作りに活かしていくようにします。これからも自宅での治療が続く中で頑張っていきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント

  • 美舟

    パラリンピックのバスケットボール。
    素晴らしいですよね。
    車椅子でのバスケットボールの迫力は本当に素晴らしいです。
    見ていて力が入ります。
    車椅子でのバスケットボールは何かで読みましたが、障害者も健常者もなく海外のあるところでは行われているようです。
    そういうところがとっても良いなと私は注目していました。
    バスケットボールの動きやされている方々の表現。
    そしてご自分の気持ちの表現。
    いつもながら素晴らしいお作品で、非常に楽しく、そして勉強になりました。
    またの素晴らしいお作品を楽しみにしております。
    良い金曜日をお過ごし下さいませ。
    2016年09月16日 00:33
  • 佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

    > 美舟さん

    こんにちは。温かいコメントをありがとうございます。

    障害者も健常者も車椅子バスケットボールが行われている、
    とても素敵ですね。そこまで行けば両者の垣根も取り払えそうですね。

    今回の填詞では、このスポーツは普通に観戦しても面白いものだと、
    そういう気持ちを中心に填詞を作っていました。
    これからも気持ちをきちんと漢詩や填詞にしていけるように、

    それと填詞はミスをして訂正をすることも時折ありますので、
    そういった訂正を出来る限り無くしていけるように頑張っていきます。

    美舟さんも良い金曜日の一日をお過ごし下さい。
    2016年09月16日 11:37