漢詩「風澗散策」(七言律詩)

58_楓澗散策_2016_10_20.png


●原文:

 風澗散策  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

霜 餘 溪 谷 盡 紅 楓  樹 樹 來 尋 西 又 東

囘 首 照 山 斜 日 下  丹 霄 錦 片 古 城 中

案 詩 林 徑 滿 秋 意  止 步 鐘 聲 響 晩 風

具 述 亂 霞 新 句 就  千 巖 萬 壑 彩 雲 雄


●書き下し文:

 題:「楓澗(ふうかん) 散策(さんさく)」

霜餘(さうよ)の溪谷(けいこく) 盡(ことごと)く紅楓(こうふう)
樹樹(じゆじゆ) 來(きた)り尋(たづ)ぬ西(にし) 又(また) 東(ひがし)

首(かうべ)を囘(めぐ)らさば山(やま)を照(て)らす斜日(しやじつ)の下(もと)
丹霄(たんせう)の錦片(きんぺん) 古城(こじやう)の裏(うち)

詩(し)を案(あん)ず林徑(りんけい) 秋意(しうい)に盈(み)つるに
步(ほ)を止(とど)む鐘聲(しようせい) 晩風(ばんぷう)に響(ひび)くに

具(つぶさ)に亂霞(らんか)を述(の)べて新句(しんく) 就(な)り
千巖(せんがん) 萬壑(ばんがく) 彩雲(さいうん) 雄(ゆう)なり

「餘」の新字体は「余」、「溪」の新字体は「渓」、「盡」の新字体は「尽」、「來」の新字体は「来」、「囘」の新字体は「回」、「徑」の新字体は「径」、「步」の新字体は「歩」、「聲」の新字体は「声」、「亂」の新字体は「乱」、「巖」の新字体は「巌」、「萬」の新字体は「万」
「霜(さう)」の新仮名遣いは「霜(そう)」
「尋(たづ)ぬ」の新仮名遣いは「尋(たず)ぬ」
「首(かうべ)」の新仮名遣いは「首(こうべ)」
「霄(せう)」の新仮名遣いは「霄(しよう)」
「城(じやう)」の新仮名遣いは「城(じよう)」
「秋(しう)」の新仮名遣いは「秋(しゆう)」


●現代語訳:

 題:「楓(かえで)の生える谷川を、枕を突いてあちこちぶらぶら歩く情景を漢詩に詠みました」

 霜が降りた谷間では、皆、紅葉した楓を見ることが出来、
 西また東と、樹々の間を尋ねて来ていました。

 振り返って後を見ると、山を照らす夕日の下にいることが分かり、
 夕焼けで赤くなった空の錦の欠片のように美しく紅葉した楓(かえで)の葉が、古いお城の中に入っていくのが見えました。

 林の小道の秋の気配が満ちる中で漢詩を考え、
 鐘の鳴る音が夕暮れの風に響いているのが聞こえる中で、歩くのを止めていました。

 乱れ舞う靄や霞のように美しく紅葉した楓(かえで)のことを詳しく述べて新たな句が出来上がり、
 多くの岩や多くの谷の間で、美しい彩りの雲が雄大な姿をしていました。


●語注:

※散策(さんさく):「つえをついてあちこちぶらぶら歩く。」(『新字源』P441)

※渓谷(溪谷)(けいこく):「山に挟まれた川のある所。たに。たにま。」(Web サイト『goo国語辞書』の「渓谷」の検索結果< http://dictionary.goo.ne.jp/jn/66293/meaning/m0u/ >(アクセス日:平成二十八年十月二十日(木)))

※回首(囘首)(かいしゆ(くわいしゆ))(小書き文字を使うと「かいしゅ」)(首(こうべ(かうべ))を回(囘)(めぐ)らす):「ふり返ってあとを見る。」(『新字源』P203)

※斜日(しやじつ)(小書き文字を使うと「しゃじつ」):「西にかたむいた日。夕日。」(『新字源』P449)

※丹霄(たんしよう(たんせう)):「夕焼けなどで赤い空。また、単に空。」(『新字源』P13)

※錦片(きんぺん):ここでは錦の欠片のように美しく紅葉した楓(かえで)の葉を指します。

※古城(こじよう(こじやう))(小書き文字を使うと「こじょう」):「古い城。ふるじろ。」(Web サイト『goo国語辞書』の「古城」の検索結果< http://dictionary.goo.ne.jp/jn/78771/meaning/m0u/ >(アクセス日:平成二十八年十月二十日(木)))

※秋意(しゆうい(しうい)):「秋のけはい。秋の気分。」(『新字源』P730)

※鐘声(鐘聲)(しようせい):「鐘の鳴る音。」(『新字源』P1050)

※乱霞(亂霞):「もみじ」(『詩語辞典(しごじてん)』河井酔荻編、松雲堂書店、昭和五十六年(1981年))

(ここで、もみじは楓(かえで)の別名として用いています。(Web サイト『goo国語辞書』の「もみじ」の検索結果< http://dictionary.goo.ne.jp/jn/220143/meaning/m0u/ >(アクセス日:平成二十八年十月二十日(木))))

※彩雲(さいうん):ここでは、「美しいいろどりの雲。」(『新字源』P345)のことです。


●解説:

 今回は楓(かえで)の生える谷川を、杖を突いてあちこちぶらぶら歩く情景を、七言律詩の漢詩にしました。

 この七言律詩は第一句・第二句・第七句・第八句が、漢詩の会の浪速菅廟吟社(なにわかんびょうぎんしゃ)の十一月の課題詩の七言絶句で、この部分を先に作った後に、更に第三句・第四句、第五句・第六句という二組の語呂合わせの句である対句(ついく)を作ってくっつけたものです。ちなみに第三句・第四句の一文字目から四文字目は、句中対(くちゅうつい:一つの句の中に対句があること)による対句です。

 晩秋の、秋の気配がすっかり深まった頃の散策、何年も前のまだ元気だった頃の記憶を思い返して漢詩を作っていました。とりわけ帰り道で紅葉の山々が夕日の光に染まる様子が美しい、その辺りに焦点を当てて漢詩を作ってみました。秋の季節の中ではこの紅葉の時期の漢詩作りがとても楽しいです。これからも自宅での治療が続く中でも、こうして遠くの自然の景色を思い浮かべて漢詩を作って気晴らしに出来れば良いなと思っています。これからもしっかりと頑張っていきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント

  • 美舟

    自宅での治療が続く中でも・・・
    色々と大変なことがある中、素晴らしいお作品を生み出されていますね。
    いつも思うのですが、素晴らしいですし、見習わねばならないと。
    ご存知だと思われますが、私はFacebookをしていますよね。
    ここ最近、Facebookの方で少し思うことがあります。
    ブログの世界とは違う感じで色々と本音で語って頂ける方が現れます。
    そのご意見を聞くと、自分ってまだ何もやってないのだな〜って思えます。
    色々な分野の駄作を量産はしている私。
    こんなことではな〜なんて以前から思っていました。
    というか、方向性が見えないって感じ・・・
    玄齋様は漢詩の世界で素晴らしい活躍をされています。
    私ももうそろそろ何かに絞り込んで、一生懸命勉強していけたらなと思いました。
    あ・・・
    つい自分のことを語ってしまいました。
    失礼致しました!
    お作品から話は逸れてしまいましたが、玄齋様の精進はいつ拝見しても感動です。
    私も頑張らないといけないな・・・そう思いました。
    いつも刺激を頂いてます。
    素晴らしいお作品と刺激を本当に感謝致します。
    2016年10月22日 13:44
  • 佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

    > 美舟さん

    こんばんは。温かいコメントをありがとうございます。

    私からすれば絵を描ける人は尊敬しますし、
    毛筆を自在に用いて字を書く方も凄いなと思います。
    出来ることが多いというのは素敵なことだと思います。

    私も時折、今の漢詩漢文とはほとんど関係のない
    物理学の勉強を独学でして楽しむこともありますが、
    やはりブログに UP できるようなネタに仕上がらないですので、
    今の漢詩漢文をしっかり行っていこうと改めて思います。

    世の中の事も知らないといけないと思い、
    以前続けていた簿記の勉強もしています。
    私は世の中に向かう時に方向性が見えづらい、
    そんな苦しみの中漢詩を作る、そんな時もあります。

    美舟さんや泥舟さんが写真や書や絵画で入選されているのを聴いた時は、
    本当にすごいなと思います。私も頑張っていこうと思います。

    Facebook は普段とは違う意見を聞くときもあって貴重ですね。
    SNS それぞれの個性が良いなとよく思います。
    時には腹を割って話が出来る、素敵なことだと思います。
    私は人見知りの面がありますので、ネット上でのコミュニケーションが
    良いリハビリになっていると思います。

    漢詩漢文を中心とはしつつも、他の勉強にも力を入れる時が来れば、
    それもしっかりと学んでいくようにしようと思っています。

    夕日の当たる紅葉の山などの記憶と、今の学習と物思い、
    これらを繫ぎ合わせて何とか漢詩を作って良ければ良いなと思います。
    これからも自宅での治療が続く中でも頑張っていきます。

    美舟さんも良い土曜日の夜をお過ごし下さい。
    2016年10月22日 21:07