填詞「初夏舟行(倣水調歌頭)」

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●原文:

 初夏舟行(倣水調歌頭)  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

 京洛迓初夏,漸盛下川舟。天然四季容色,兩岸樂佳遊。急瀨依然艇子,一棹閑搖轉進,巨石避悠悠。操縱安心處,觀賞樹陰稠。



 快晴候,淸涼裏,乘江流。陽光灼灼,條風爽快冷吟眸。垂葉靑靑頭上,探勝依依胸裏,一景去難留。今日佳賓共,再會待望秋。


●書き下し文:

 題:「初夏(しよか) 舟行(しうかう)(水調歌頭(すいてうかとう)に倣(なら)ふ)」

 京洛(けいらく) 初夏(しよか)を迓(むか)へ,
 漸(やうや)く盛(さか)んなる川(かは)を下(くだ)る舟(ふね)。

 天然(てんねん)の四季(しき)の容色(ようしよく),
 兩岸(りやうがん)の佳遊(かいう)を樂(たの)しむ。

 急瀨(きふらい)も依然(いぜん)たる艇子(ていし),
 一棹(いつたう) 閑かに搖(うご)かして轉進(てんしん)すれば,
 巨石(きよせき) 避(さ)くること悠悠(いういう)たり。

 操縱(さうじゆう) 安心(あんしん)の處(ところ),
 樹陰(じゆいん)の稠(しげ)きを觀賞(くわんしやう)せん。

  ●

 快晴(くわいせい)の候(こう),
 淸涼(せいりやう)の裏(うち),
 江流(かうりう)に乘(の)る。

 陽光(やうくわう) 灼灼(しやくしやく)たるも,
 條風(でうふう) 爽快(さうくわい)にして吟眸(ぎんぼう) 冷(ひ)ややかなり。

 葉(は)を垂(た)れて靑靑(せいせい)たる頭上(づじやう),
 勝(しよう)を探(さぐ)りて依依(いい)たる胸裏(きようり),
 一景(いつけい) 去(さ)りて留(とど)まり難(がた)し。

 今日(こんにち) 佳賓(かひん)と共(とも)にして,
 待望(たいぼう)の秋(あき)に再會(さいくわい)せん。

「兩」の新字体は「両」、「樂」の新字体は「楽」、「瀨」の新字体は「瀬」、「搖」の新字体は「揺」、「轉」の新字体は「転」、「縱」の新字体は「縦」、「處」の新字体は「処」、「觀」の新字体は「観」、「晴」の新字体は「晴」、「淸」の新字体は「清」、「乘」の新字体は「乗」、「條」の新字体は「条」、「靑」の新字体は「青」、「會」の新字体は「会」
「舟(しう)」の新仮名遣いは「しゆう(小書き文字を使うと『しゅう』)」
「調(てう)」の新仮名遣いは「ちよう(小書き文字を使うと『ちょう』)」
「迓(むか)へ」の新仮名遣いは「迓(むか)え」
「漸(やうや)く」の新仮名遣いは「漸(ようや)く」
「川(かは)」の新仮名遣いは「かわ」
「兩(りやう)」の新仮名遣いは「りよう(小書き文字を使うと『りょう』)」
「急(きふ)」の新仮名遣いは「きゆう(小書き文字を使うと『きゅう』)」
「棹(たう)」の新仮名遣いは「とう」
「閑(しづ)かに」の新仮名遣いは「閑(しず)かに」
「悠(いう)」の新仮名遣いは「悠(ゆう)」
「操(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「觀賞(くわんしやう)」の新仮名遣いは「かんしよう(小書き文字を使うと『かんしょう』)」
「快(くわい)」の新仮名遣いは「快(かい)」
「涼(りやう)」の新仮名遣いは「りよう(小書き文字を使うと『りょう』)」
「江流(かうりゆう)」の新仮名遣いは「こうりゆう(小書き文字を使うと『こうりゅう』)」
「陽光(やうくわう)」の新仮名遣いは「ようこう」
「條(でう)」の新仮名遣いは「じよう(小書き文字を使うと『じょう』)」
「爽(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「頭(づ)」の新仮名遣いは「ず」
「望(ばう)」の新仮名遣いは「ぼう」
「會(くわい)」の新仮名遣いは「かい」


●現代語訳:

 題:「初夏の舟旅の様子を、填詞(てんし:宮廷歌謡の替え歌)の一つ、『水調歌頭(すいちょうかとう)』で詠みました」

 京都は初夏を迎え、
 次第に川下りの舟が盛んになってきました。

 人工の加わらない自然の四季の顔形(四季の自然の景色)を、
 川の両岸の(自然の風景による)良い遊びを楽しんでいました。

 急な流れの川の瀬も、船頭は前と変わること無く、
 一本の舟棹を静かに動かして進路を変えると、
 巨大な石も、避ける様子はゆったりと落ち着いて、舟を操る道を得て思いのままでした。

 (そこで)(舟の運転は、安心する所なので、
 木陰が茂っているのを見て楽しもう。)と思っていました。

  ●

 快晴の時の、
 さっぱりして清々しい中、
 川の流れに乗っていました。

 太陽の光が、光り輝いているけれども、
 一筋の風が爽やかで心地良く、詩人の瞳も涼やかになっていました。

 頭上では、木の枝が葉を垂れて、青く生い茂っていて、
 風景の優れている所を尋ね歩いて、胸の内では名残惜しくて離れにくい気持ちがありました。
 一つの景色は、去っていって留まることが難しいのです。

 今日のこの日を、良い客と共にして、
 (待ち望む秋に再会しよう。)と思っていました。


●語注:

(以下、『新字源』は1994年(平成六年)十一月十日の改訂版を引用しています。)

※舟行(しゆうこう(しうかう))(小書き文字を使うと「しゅうこう」):「舟で旅する。ふなたび。」(『新字源』P837)

※水調(すいちよう(すいてう))(小書き文字を使うと「すいちょう」):「楽府〔がふ〕の一つ。隋の煬帝〔ようだい〕に始まったというなまめかしい歌。」(『新字源』P837)

※楽府(樂府)(がふ):「①音楽をつかさどる役所。前漢の武帝のとき、宮中に設けられた。②楽府に採集された詩で、音楽に合わせて歌われたもの。③唐以後、楽府の題を借りて作られた詩、古語の一体で、擬古楽府〔ぎこがふ〕という。」(『新字源』P514)ここでは、③の意味で用いています。

※京洛(けいらく):「①天子〔てんし〕の都。もと、洛陽〔らくよう〕に都があったのでいう。②〔日本語で〕京都をいう。」(『新字源』P38)

※容色(ようしよく)(小書き文字を使うと「ようしょく」):「顔かたち。器量。」(『新字源』P280)

※天然(てんねん):「人工の加わっていない自然のままの状態。」(『新字源』P243)

※佳遊(かゆう(かいう)):「良い遊び」のことです。

※依然(いぜん):ここでは「もとのまま。」(『新字源』P58)の意味で用いています。

※艇子(ていし):「舟をあやつる人。ふなこ。船頭。」(『新字源』P839)

※転進(轉進)(てんしん):「方向を変えて進むこと。進路を変えること。」(Webサイト『goo国語辞書』の「転進」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/153826/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月一日(月)))

※悠悠(ゆうゆう(いういう)):ここでは、「形容悠閑自在」(Webサイト『漢典(かんてん)』の「悠悠」の検索結果 < http://www.zdic.net/c/0/144/316708.htm > (アクセス日:平成二十九年五月十三日(土))の(9))、つまり、「ゆったりと落ち着いて、その道〔ここでは舟を操る道〕を得て、拘束を受けず自分の思いのままであることの表現」ということです。

※操縦(操縱)(そうじゆう(さうじゆう))(小書き文字を使うと「そうじゅう」):「機械や乗り物などを運転する。」(『新字源』P431)

※観賞(觀賞)(かんしよう(くわんしやう))(小書き文字を使うと「かんしょう」):「見て楽しむ。見てほめる。」(『新字源』P917)

※清涼(淸涼)(せいりよう(せいりやう))(小書き文字を使うと「せいりょう」):「さっぱりしてすがすがしい。」(『新字源』P590)

※灼灼(しやくしやく)(小書き文字を使うと「しゃくしゃく」):「光かがやくさま。」(『新字源』P616)

※条風(條風)(じようふう(でうふう))(小書き文字を使うと「じょうふう」):「ひとすじの風」(河井酔荻編『詩語辞典』P160、東京松雲堂書店、1981年(昭和五十六年)十二月二十日初版)

※爽快(そうかい(さうくわい)):「さわやかで、ここちよい。」(『新字源』P250)

※吟眸(ぎんぼう):「詩人の瞳」のことです。

※青青(靑靑)(せいせい):「青くおいしげったさま。」(『新字源』P1091)

※探勝(たんしよう)(小書き文字を使うと「たんしょう」)(勝(しよう)(小書き文字を使うと「しょう」)を探(さぐ)る):「風景のすぐれている所をたずね歩く。」(『新字源』P420)

※依依(いい):「なごりおしくて、はなれにくいさま。」(『新字源』P57)

※一景(いつけい)(小書き文字を使うと「いっけい」):「(鑑賞に値する)一つの風景・景物。」(Webサイト『Weblio辞書』の「一景」の検索結果 < http://www.weblio.jp/content/%E4%88%80%E6%99%AF > (アクセス日:平成二十九年五月二日(火))のうち、『三省堂・大辞林』の検索結果より)

※佳賓(かひん)(=佳客(かかく)):「よい客。」(『新字源』P58)

※待望(たいぼう(たいばう)):「待ち望む。」(『新字源』P150)


●解説:

 今回は、初夏の船旅の様子を填詞(てんし:宮廷歌謡の替え歌)の一つ、『水調歌頭(すいちょうかとう)』で詠んだものです。

 初夏の舟旅は京都の保津川の川下りをイメージして作りました。次第に暑くなってきた時期ですから、川下りも次第に盛況になってくるものと思いました。巨大な石もゆったりと落ちついた様子で避ける船頭、爽やかな舟旅、青々と茂った木の枝の葉、そして名残惜しさの残る舟旅の後、秋にまた会おうと再会を誓う、そんな情景を詠みました。

 ここで、『水調歌頭(すいちょうかとう)』について解説しますと、龍楡生(りゅうゆせい)の『龍楡生詞學四種(りゅうゆせいしがくよんしゅ)・唐宋詞格律(とうそうしかくりつ)』によりますと、これは唐の時代の楽府(がふ)の一つである『水調歌(すいちょうか)』の最初の部分を切り取って、一つの詞譜(しふ:又は詞牌(しはい)。填詞(てんし)の譜面のことです。)としたものです。「歌頭(かとう)」と付いたものは、大きな曲の最初の部分を指すことになるとのことです。

 ちなみに『水調歌(すいちょうか)』は元々、隋の三代目の皇帝の煬帝(ようだい)が汴河(べんが)という運河を切り開いた時に作られた、『水調(すいちょう)』というなまめかしい歌が元になっているとのことです。

 楽府(がふ)とは、前漢の武帝(ぶてい)の時代に設置された音楽を司る役所のことで、その役所に採集された歌のことも楽府(がふ)と言います。唐の時代の楽府(がふ)とは、唐の時代以降に楽府(がふ)の題を借りて作られた詩や古語を指すもので、擬古楽府(ぎこがふ)と言われます。

 『水調歌頭(すいちょうかとう)』の漢字の字数は九十五文字と、とても長いものですから。元の歌の長さはとても長いものだったろうなと思います。

 こういう長い填詞(てんし)もきちんと詠んでいければ良いなと思います。これからもしっかりと普段の勉強と共に頑張っていきます。


●付録:

 龍楡生(りゅうゆせい)の『龍楡生詞學四種(りゅうゆせいしがくよんしゅ)・唐宋詞格律(とうそうしかくりつ)』によりますと、填詞(てんし)の『水調歌頭(すいちょうかとう)』は、次のような詞譜(しふ:又は詞牌(しはい)。填詞(てんし)の譜面のことです。)になります。

〇:平声(ひょうしょう)
●:仄声(そくしょう)
△:平声(ひょうしょう)と仄声(そくしょう)のどちらでも良い。
◎:平声(ひょうしょう)の押韻(おういん:韻を踏む)

 △●●○●,△●●○◎。△○△●○△,△●●○◎。△●○○△●,△●○○△●,△●●○◎。△●●○●,△●●○◎。

 ●(左の「●」は仄声(そくしょう)では無く、前半と後半の区切りです。)

 △△△,△△●,●○◎。△○△●,○△○●●○◎。△●○○△●,△●○○△●,△●●○◎。△●△○●,△●●○◎。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

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