漢詩「初夏墓参」(五言排律)

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●原文:

 初夏墓參  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

首 夏 風 痕 綠  遙 途 晝 尚 涼

一 些 檐 鐡 響  千 本 杜 花 香

新 樹 過 街 路  淸 境 到 佛 堂

閑 庭 拂 塵 念  古 殿 拜 空 王

報 墓 推 移 早  羞 天 落 索 長

生 前 憶 遺 訓  懷 句 已 昏 黃


●書き下し文:

 題:「初夏(しよか) 墓參(ぼさん)」

首夏(しゆか) 風痕(ふうこん) 綠(みどり)にして
遙途(えうと) 晝(ひる) 尚(なほ) 涼(すず)し

一些(いつしや) 檐鐡(えんてつ) 響(ひび)き
千本(せんぼん) 杜花(とくわ) 香(かんば)し

新樹(しんじゆ) 街路(がいろ)を過(す)ぎ
淸境(せいきやう)の佛堂(ぶつだう)に到る

閑庭(かんてい) 塵念(ぢんねん)を拂(はら)ひ
古殿(こでん) 空王(くうわう)に拜(はい)す

墓(はか)に推移(すいい)の早(はや)きを報(はう)じ
天(てん)に落索(らくさく)の長(なが)きを羞(は)づ

生前(せいぜん)の遺訓(ゐくん)を憶(おも)ひ
句(く)を懷(おも)へば已(すで)に昏黃(こんくわう)なり

「參」の新字体は「参」、「綠」の新字体は「緑」「遙」の新字体は「遥」、「晝」の新字体は「昼」、「鐡」の新字体は「鉄」、「淸」の新字体は「清」、「佛」の新字体は「仏」、「拂」の新字体は「払」、「拜」の新字体は「拝」、「懷」の新字体は「懐」、「黃」の新字体は「黄」
「遙(えう)」の新仮名遣いは「よう」
「尚(なほ)」の新仮名遣いは「なお」
「花(くわ)」の新仮名遣いは「か」
「境(きやう)」の新仮名遣いは「きよう(小書き文字を使うと『きょう』)」
「堂(だう)」の新仮名遣いは「どう」
「塵(ぢん)」の新仮名遣いは「じん」
「拂(はら)ひ」の新仮名遣いは「拂(はら)い」
「王(わう)」の新仮名遣いは「おう」
「報(はう)じ」の新仮名遣いは「報(ほう)じ」
「羞(は)づ」の新仮名遣いは「羞(は)ず」
「遺(ゐ)」の新仮名遣いは「い」
「憶(おも)ひ」の新仮名遣いは「憶(おも)い」
「懷(おも)へば」の新仮名遣いは「懷(おも)い」
「黃(くわう)」の新仮名遣いは「こう」


●現代語訳:

 題:「初夏のお墓参りの様子を漢詩に詠みました」

 陰暦四月の初夏の頃、風の通った跡は緑の草木が茂っていて、
長い道のりは、昼間でも尚、涼しい気候でした。

 少しばかり風鈴が鳴り響いていて、
 千本の山躑躅(ヤマツツジ)の花から、良い匂いがしていました。

 新緑の樹木の植えられた市街地の道路を過ぎると、
 清らかな場所である仏堂(ぶつどう:仏像を安置した堂)に着きました。

 静かな庭では、俗世間的な汚れた心を払い落とし、
 古い大きな建物では、仏様を礼拝(らいはい:「神や仏を拝むこと」(『新字源』P718))していました。

 お墓に物事の移り変わりの早さを知らせて、
 天に対して、私が落ちぶれて物寂しい時期の長いことを恥ずかしく思うのです。

 亡き父の生きている時の、私に残した教訓を思い、
 漢詩の句を考えていると、既に夕暮れ時になっていました。


●語注:

(以下、『新字源』は1994年(平成六年)十一月十日の改訂版を引用しています。)


(海外のWebサイトのURLは、リンクを防止するために「:(コロン)」を全角にしています。)

※墓参(墓參)(ぼさん):「墓に参ること。墓参り。」(Webサイト『goo国語辞書』の「墓参」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/203777/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月六日(土)))

※首夏(しゆか)(小書き文字を使うと「しゅか」):①「夏の初め。初夏。」或いは②「陰暦四月の異称。」(どちらもWebサイト『goo国語辞書』の「首夏」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/104872/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月六日(土)))

※遥途(遙途)(ようと(えうと))(=遥塗(遙塗)(ようと(えうと))):「猶遠道。」(『漢語大詞典』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「遙途」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年五月六日(土))))、つまり、「ちょうど長い道のりのようなもの。」です。

※一些(いつしや)(小書き文字を使うと「いっしゃ」):「少々。少しばかり。」(『新字源』P2)

※檐鉄(檐鐡)(えんてつ):「卽檐馬。」(『漢語大詞典』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「檐鐡」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年五月六日(土))))、つまり、「つまり檐馬〔えんば〕のこと。」です。

※檐馬(えんば)(=檐鐸(えんたく)・檐鈴(えんれい)):「のきにつるした鈴。ふうりん。」(『新字源』P527)

※杜花(とか(とくわ)):「やまつつじ」(『詩語辞典』、河井酔荻編、東京松雲堂書店、P203、昭和五十六年(1981年)十二月二十日初版)

※新樹(しんじゆ):「若葉が芽吹いて瑞々しい緑色をしている樹木。新緑の樹木。」(Webサイト『goo国語辞書』の「新樹」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/114409/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月六日(土)))

※街路(がいろ):「市街地の道路。まちなかの道。」(Webサイト『goo国語辞書』の「街路」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/37263/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月六日(土)))

※仏堂(佛堂)(ぶつどう(ぶつだう)):「仏像を安置した堂。仏殿〔ぶつでん〕。」(Webサイト『goo国語辞書』の「仏殿」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/193748/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月六日(土)))

※塵念(じんねん(ぢんねん)):「俗世間的なけがれた心。名利を求める心。」(『新字源』P224)

※空王(くうおう(くうわう)):「仏の尊称。仏が一切皆空〔いっさいかいくう:『世の中のすべての物事は因縁によって生じる仮のすがたで、実体がないということ。』(『新字源』P739『空』の⑫)〕を説いたからいう。」(『新字源』P740)

※推移(すいい):「うつりかわり。」(『新字源』P419)

※落索(らくさく):「落ちぶれてものさびしいさま。」(『新字源』P803)

※生前(せいぜん):「生きているとき。」(『新字源』P666)

※遺訓(いくん(ゐくん)):「個人の残した教え。父祖から子孫への教訓。」(Webサイト『goo国語辞書』の「遺訓」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/10698/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月六日(土)))

※昏黄(昏黃)(こんこう(こんくわう)):「たそがれ。夕ぐれ。」(『新字源』P2)


●解説:

 今回は、初夏のお墓参りの様子を、五言排律の漢詩に詠みました。

 街路の草木や花を眺めたり、風鈴の音を聴いたりしながらお墓のあるお寺に向かい、そこで仏様を拝んだりお墓に報告したりする様子を詠んでいました。

 今月末は父が亡くなった日でもあります。昨年に三回忌は済ませました。父が残した言葉の中で印象に残っていることの一つは、「好きなことをしろ。」でした。私は好きな分野を勉強するという意味に理解して、今も漢詩や漢文、そして普段の資格の勉強を続けています。これからも単に自分の状況を嘆くのではなくて、きちんと地に足を付けて努力をしていきます。これからも体調に気を付けて頑張ります。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

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