漢詩「初夏即事」(七言律詩)

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●原文:

初夏卽事  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

求 涼 栽 竹 午 風 輕  烟 霧 翠 微 山 景 淸

凝 意 閑 吟 豔 藤 架  空 心 靜 坐 冷 桃 笙

吹 簫 海 岸 蒼 松 籟  碎 玉 石 泉 藍 水 聲

更 欲 幽 篁 村 里 裏  農 夫 不 厭 苦 辛 程


●書き下し文:

 題:「初夏(しよか) 卽事(そくじ)」

涼(りやう)を求(もと)めて竹(たけ)を栽(う)うれば午風(ごふう) 輕(かる)く
烟霧(えんむ)の翠微(すいび) 山景(さんけい) 淸(きよ)し

意(い)を凝(こ)らして閑吟(かんぎん)すれば藤架(とうか) 豔(あで)やかに
心(こころ)を空(むな)しくして靜坐(せいざ)すれば桃笙(たうさう) 冷(ひ)ややかなり

簫(せう)を吹(ふ)く海岸(かいがん) 蒼松(さうしよう)の籟(らい)
玉(たま)を碎(くだ)く石泉(せきせん) 藍水(らんすい)の聲(こゑ)

更(さら)に幽篁(いうくわう)を欲(ほつ)す村里(そんり)の裏(うち)
農夫(のうふ) 厭(いと)はず苦辛(くしん)の程(みちのり)を

「卽」の新字体は「即」、「輕」の新字体は「軽」、「烟」の新字体は「煙」、「淸」の新字体は「清」、「豔」の新字体は「艶」、「靜」の新字体は「静」、「碎」の新字体は「砕」、「聲」の新字体は「声」
「涼(りやう)」の新仮名遣いは「りよう(小書き文字を使うと「りょう」)」
「桃笙(たうさう)」の新仮名遣いは「とうそう」(「笙(そう(さう))」は漢語の発音です。)
「蒼(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「聲(こゑ)」の新仮名遣いは「こえ」
「幽篁(いうくわう)」の新仮名遣いは「ゆうこう」
「厭(いと)はず」の新仮名遣いは「厭(いと)わず」


●現代語訳:

 題:「初夏の日のその場の事を漢詩に詠みました」

 涼しさを求めて竹を植えると、昼間に吹く風が軽やかに感じられ、
 山の八合目辺りはもやがかっていて、山の景色は清らかに感じられました。

 思いを凝らして静かに詩歌を口ずさめば、藤棚が艶やかに美しく感じられ、
 心を空っぽにして落ち着けて静かに座ると、桃笙(とうそう)、つまり桃枝竹(とうしちく)という竹で編まれた筵(むしろ)がひんやりと感じられました。

 簫(しょう)の笛(竹管を横に並べて作った笛)を吹くような、海岸の青い松の梢(こずえ:「木の幹やえだの先端。」(『新字源』P508))を吹く風の音がして、
 美しい宝玉を砕くような、岩の間から流れ出る泉の青い水の音がしていました。

 更に静かな竹藪を求める村里の中では、
 農夫は苦しい道のりを嫌がることはありませんでした。


●語注:

(以下、『新字源』は1994年(平成六年)十一月十日の改訂版を引用しています。)

(海外のWebサイトは、リンクを防止するため、「:(コロン)」を全角にしています。)

※即事(卽事)(そくじ):「その場の事を詠じた詩。」(『新字源』P147)

※午風(ごふう):「昼間に吹く風。」のことです。

※煙霧(烟霧)(えんむ):「もや。かすみ。」(『新字源』P623)

※翠微(すいび):「①山のみどり色のもや。②山の八合めあたり。」(『新字源』P803)ここでは②の意味で用いています。

※閑吟(かんぎん):「詩歌など静かに口ずさむ。」(『新字源』P1059)

※藤架(とうか):「ふじのたな。」(『新字源』P876)

※静坐(靜坐)(せいざ):「心を落ち着けて静かに座ること。」(Webサイト『goo国語辞書』の「靜坐」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/121509/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月十日(水)))

※桃笙(とうそう(たうさう)):「桃枝竹編的竹席。」(『漢語大詞典』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「桃笙」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年五月十日(水))))

※簫(しよう(せう))(小書き文字を使うと「しょう」):「しょうのふえ。竹管を横にならべて作ったふえ。二十四管のものまでいろいろある。」(『新字源』P759)

※松籟(しようらい)(小書き文字を使うと「しょうらい」):「松の梢(こずえ)に吹く風。また、その音。」(Webサイト『goo国語辞書』の「松籟」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/110408/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月十日(水)))

※石泉(せきせん):「岩のあいだから流れ出るいずみ。」(『新字源』P108)

※藍水(らんすい):「あおいろの〔水〕」(河井酔荻編『詩語辞典』P272、東京松雲堂書店、昭和五十六年(1981年)十二月二十日の初版)

※幽篁(ゆうこう(いうくわう)):「静かな竹やぶ。」(『新字源』P325)

※苦辛(くしん):「くるしむ。苦しみ。」(『新字源』P848)

※竹酔(竹醉)(ちくすい):「指竹醉日。」(更に「竹醉日」は「栽竹之日。」とあります。)(『漢語大詞典』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「竹醉」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年五月十日(水))))つまり、「竹酔日(ちくすいび:竹を植える日)を指す。」ということです。


●解説:

 今回は、初夏の日のその場の事を、七言律詩の漢詩にしました。

 この七言律詩は私の所属している漢詩の会の「浪速菅廟吟社(なにわかんびょうぎんしゃ)」の五月課題の一つ、「翠烟竹醉(すいえんちくすい:緑の靄の中、竹を植える日)」という七言絶句(一句目・二句目・七句目・八句目)をまず作り、更に二組の対句(三句目と四句目、五句目と六句目)を作ってそれを加えて七言律詩としたものです。

 「竹酔(竹醉)(ちくすい)」は語注の最後にも書きましたように、「竹酔日(ちくすいび)」、つまりこれは、「竹を植える日」のことを指します。竹を植えて涼しさを得ようとする村の様子と、そこで見られる初夏の涼しげな風物を思い浮かべて漢詩にしました。

 最後の句の農夫のように、苦しい道のりの中でもしっかりと頑張っていこうと思います。これからも体調に気を付けて頑張ります。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

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