漢詩「懐屯卦」(五言古詩・一韻到底格)

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図1:屯(ちゅん)の卦の形



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●原文:

 懷屯卦  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

人 生 屯 難 在  逆 境 行 動 危

獨 識 難 處 故  切 欲 得 時 宜

周 易 觀 屯 卦  古 來 道 理 知

此 處 試 吟 詠  確 實 述 所 思

屯 卦 坎 下 震  雨 前 雷 鳴 姿

陰 陽 交 未 暢  在 未 亨 泰 期

上 下 觀 八 卦  險 中 事 事 爲

三 動 既 濟 卦  雷 電 降 雨 滋

元 亨 利 貞 德  在 屯 意 如 斯

亨 通 與 利 益  須 要 貞 正 持

英 明 君 主 在  多 憂 大 臣 悲

實 權 非 君 主  國 運 日 日 衰

嘆 無 濟 屯 力  謙 讓 建 侯 隨

建 侯 大 臣 佐  改 革 端 緒 披

卒 爾 戒 矯 正  漸 漸 得 推 移

正 鑑 魯 昭 失  盤 庚 從 仁 慈

黎 明 識 書 卷  改 革 識 遅 遅

意 到 漸 次 學  滿 足 終 此 詩


●書き下し文:

 題:「屯卦(ちゆんくわ)を懷(おも)ふ」

人生(じんせい) 屯難(ちゆんなん) 在(あ)り
逆境(ぎやくきやう) 行動(かうどう) 危(あや)ふし

獨(ひと)り難處(なんしよ)を識(し)るが故(ゆゑ)に
切(せつ)に時宜(じぎ)を得(え)んと欲(ほつ)す

周易(しうえき)の屯卦(ちゆんくわ)を觀(み)て
古來(こらい)の道理(だうり)知(し)る

此處(ここ)に吟詠(ぎんえい)を試(こころ)み
確實(かくじつ)に思(おも)ふ所(ところ)を述(の)べん

屯卦(ちゆんくわ) 坎下(かんか)の震(しん)
雨前(うぜん) 雷鳴(らいめい)の姿(すがた)

陰陽(いんやう) 交(まじ)はりて未(いま)だ暢(の)びず
未(いま)だ亨泰(かうたい)ならざる期(とき)に在(あ)り

上下(しやうか)の八卦(はつくわ)を觀(み)れば
險中(けんちゆう) 事事(じじ) 爲(な)す

三(さん) 動(うご)かば既濟(きさい)の卦(くわ)
雷電(らいでん) 降雨(かうう) 滋(しげ)し

元亨利貞(げんかうりてい)の德(とく)
屯(ちゆん)に在(あ)るは意(い) 斯(か)くの如(ごと)し

亨通(かうつう)と利益(りえき)と
須要(すべから)く貞正(ていせい) 持(ぢ)すべし

英明(えいめい)の君主(くんしゆ) 在(あ)りて
憂(うれ)ひ多(おほ)き大臣(だいじん) 悲(かな)しむ

實權(じつけん) 君主(くんしゆ)に非(あら)ずして
國運(こくうん) 日日(ひび) 衰(おとろ)ふ

屯(ちゆん)を濟(すく)ふの力(ちから) 無(な)きを嘆(たん)じ
建侯(けんこう)に謙讓(けんじやう)して隨(したが)ふ

建侯(けんこう) 大臣(だいじん)の佐(さ)にして
改革(かいかく)の端緒(たんしよ) 披(ひら)く

卒爾(そつじ) 矯正(けうせい)するを戒(いまし)め
漸漸(ぜんぜん) 推移(すいい)するを得(え)たり

正(まさ)に魯昭(ろせう)の失(しつ)に鑑(かんが)み
盤庚(ばんかう)の仁慈(じんじ)に從(したが)ふなり

黎明(れいめい) 書卷(しよくわん)に識(し)り
改革(かいかく)の遲遲(ちち)たるを識(し)る

意(い) 漸次(ぜんじ)の學(まな)びに到(いた)り
滿足(まんぞく)して此(こ)の詩(し)を終(を)ふ

「懷」の新字体は「懐」、「獨」の新字体は「独」、「處」の新字体は「処」、「觀」の新字体は「観」、「來」の新字体は「来」、「實」の新字体は「実」、「險」の新字体は「険」、「爲」の新字体は「為」、「濟」の新字体は「済」、「德」の新字体は「徳」、「益」の新字体は「益」、「權」の新字体は「権」、「國」の新字体は「国」、「讓」の新字体は「譲」、「隨」の新字体は「随」、「從」の新字体は「従」、「卷」の新字体は「巻」、「遲」の新字体は「遅」、「學」の新字体は「学」、「滿」の新字体は「満」
「卦(くわ)」の新仮名遣いは「か」
「懷(おも)ふ」の新仮名遣いは「懷(おも)う」
「境(きやう)」の新仮名遣いは「きよう(小書き文字を使うと『きょう』)」
「行(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「危(あや)ふし」の新仮名遣いは「危(あや)うし」
「故(ゆゑ)に」の新仮名遣いは「故(ゆえ)に」
「周(しう)」の新仮名遣いは「しゆう(小書き文字を使うと『しゅう』)」
「道(だう)」の新仮名遣いは「どう」
「思(おも)ふ」の新仮名遣いは「思(おも)う」
「陽(やう)」の新仮名遣いは「よう」
「交(まじ)はりて」の新仮名遣いは「交(まじ)わりて」
「亨(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「上(しやう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「降(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「持(ぢ)する」の新仮名遣いは「持(じ)する」
「憂(うれ)ひ」の新仮名遣いは「憂(うれ)い」
「多(おほ)き」の新仮名遣いは「多(おお)き」
「衰(おとろ)ふ」の新仮名遣いは「衰(おとろ)う」
「濟(すく)ふ」の新仮名遣いは「濟(すく)う」
「讓(じやう)」の新仮名遣いは「じよう(小書き文字を使うと『じょう』)」
「隨(したが)ふ」の新仮名遣いは「隨(したが)う」
「矯(けう)」の新仮名遣いは「きよう(小書き文字を使うと『きょう』)」
「昭(せう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「庚(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「從(したが)ふ」の新仮名遣いは「從(したが)う」
「卷(くわん)」の新仮名遣いは「かん」
「終(を)ふ」の新仮名遣いは「終(お)う」


●現代語訳:

 題:「易の卦の一つ、屯(ちゅん)の卦のことを考えて漢詩に詠みました」

 人生には上手くゆかずに困難な状況になることがあり、
 思うままにならない境遇の時に行動するのは危険があるのです。

 私は一人、困難な所を知っているので、
 切実に、その時に都合の良い行動を得ようとしているのです。

 儒学の経典である五経(ごきょう)の一つで、周(しゅう)の時代から行われた易について述べた書である『周易(しゅうえき:別名を『易経(えききょう)』)』の六十四の卦の一つである「屯(ちゅん)」の卦(か)をじっくりと見て、
 昔から今に至るまでの道理を知るのです。

 ここで、声を上げて詩歌を歌うことを試みて、
 思う所を確かで間違いが無いように述べようと思います。

 屯の卦は「坎(かん:☵)」の下に「震(しん:☳)」がある形をしていて、
 坎(かん)は雲、震(しん)は雷を示していて、雨が降る前に雷が鳴る姿を象っています。

 天地の間の万物を作りだす陰と陽の気が交わって未だ行き渡らずに、
 未だ順調に行なわれて無事で安らかではない時なのです

 上下の八卦(はっか:坎(かん)と震(しん))をじっくりと見ますと、
 険中(けんちゅう)に動く(険しい中で動く)、つまり厳しい状況の中で、いろいろなことを行なうということを示しています。

 もし屯(ちゅん)の卦の三番目の爻(こう:卦を構成する六本の陰と陽を示す線)が動く(陰の爻(こう)が陽の爻(こう)に変化する)とすれば、すべての爻(こう)が正しい位置(初(一番下)・三・五は陽、二・四・上(一番上)は陰)になり、事が既に成っている様に象る既済(きさい)の卦になり(図2)、
 この既済(きさい)の卦は「坎(かん:☵)」の下に「離(り:☲)」があるという形で、「離(り)」は稲妻を表し、雲の下で雷が鳴り、稲妻が走って雨の降る量が多くなります。

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図2:既済(きさい)の卦の形


 元亨利貞(げんこうりてい:大いに道が行なわれて物事が順調に行なわれて、大いに役に立つことになり、そのためには正しい気持ちを固く保つことが大切であること。)という四つの徳が、
 屯(ちゅん)の卦にある(屯(ちゅん)の卦を解説する卦辞(かじ)にある)のは、このような考え方に基づいているのです。

 順調にいくこととためになる(役に立つ)ことになるには、
 正しい気持ちを保ち続けて、正しい行ないをしなければならないのです。

 優れて物事の道理に明るい君主がいて、
 心配事の多い大臣は、悲しんでいました。

 政治の実権、つまり実際に有している権力は君主には無く、
 その国の勢いは、日々衰えていきました。

 (大臣には)上手くゆかずに困難な状況を救う実力が無いことを嘆き、
 謙って新たに諸侯(しょこう:王の配下で、各地を治める君主)を置いて国政を補佐させて、その諸侯(しょこう)に大臣は従いました。

 新たに置いた国政を補佐する諸侯(しょこう)は大臣の補佐となって、
 従来の制度などを改めてより良いものにする改革の手掛かりを得たのでした。

 (権力を握っている者を討伐するなどして、)俄かに曲がったものを正しくすることを戒め、
 次第に移り変わっていくように政治を行なうことが出来ました。

 これはまさしく、魯(ろ)の昭公(しょうこう:春秋戦国時代(しゅんじゅうせんごくじだい)の魯(ろ)の国の二十四代目の君主で、実権を握っていた季孫子(きそんし)を討伐しようとして大敗し、斉国(せいこく)に逃れた人物です。)の失敗を手本として見て、
 盤庚(ばんこう:古代の商(しょう)王朝(殷(いん)王朝)の中興の祖で、国の勢いが衰えて遷都が続いていた中、多くの人々の議論を排して殷(いん:今の河南省安陽市の西北)に都を遷し、優れた政治を行って国が繁栄しました。)の思いやりがあって情け深い政治に従うものです。

 国の夜明けを書物に知り、
 従来の制度などを改めてより良いものにする改革は進んでいないのを知ったのです。

 私の気持ちは徐々に進めていく学問に行き着いて、
 満足してこの詩を終えるのでした。


●語注:

(以下、『新字源』は1994年(平成六年)十一月十日発行の改訂版を引用しています。)

(以下、海外のサイトのURLは、リンクを防止するために、「:(コロン)」を全角にしています。)

※屯卦(ちゆんか(ちゆんくわ))(小書き文字を使うと「ちゅんか」):「易の六十四の卦の一つで、人生に行き悩んだ時の身の処し方について述べたものです。」(卦の形は図1にあります)

※屯難(ちゆんなん):「人生がうまくゆかず困難なこと。ゆきなやみ。ゆきづまり。」(『新字源』P299)

※逆境(ぎやつきよう(ぎやくきやう))(小書き文字を使うと「ぎゃっきょう」):「思うままにならない境遇。」(『新字源』P946)

※時宜(じぎ):「そのときにちょうどつごうのよいこと。」(『新字源』P468)

※周易(しゆうえき(しうえき))(小書き文字を使うと「しゅうえき」):「書名。五経の一つ。周の文王や孔子によって大成されたといわれ、万物の変化の原理を処世訓を述べている。」(『新字源』P176)、その別名を『易経(えききよう(えききやう))(小書き文字を使うと「えききょう」)』と言い、「書名。二巻。五経の一つ。うらないの書で、万物の変化と倫理の関係を説く。」(『新字源』P461)とあり、両者は同じものです。(五経の一つで、周の時代から始まった易について述べた書です。)

※古来(古來)(こらい):「むかしから今に至るまで。」(『新字源』P161)

※吟詠(ぎんえい):「声をあげて詩歌をうたう。」(『新字源』P170)

※確実(確實)(かくじつ):「確かでまちがいがない。」(『新字源』P714)

※坎(かん):「八卦(はっか)の一つで、『北』『水』『雲』『困難』『次男』などを表します。」

※震(しん):「八卦(はっか)の一つで、『東』『雷』『地震』『動く』『長男』などを表します。」

※雷鳴(らいめい):「①かみなりが鳴る。②かみなりのように鳴る。また、その大きい音声。」(『新字源』P1085)

※陰陽(いんよう(いんやう)):「陰と陽。天地間の万物を作りだす二気。天地・日月・暖寒・男女のように相対する二つの気。」(『新字源』P1069)

※亨泰(こうたい(かうたい)):「泰通安泰。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「亨泰」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年五月十九日(金))))、つまり、「順調に行なわれて無事で安らか。」という意味です。

※亨通(こうつう(かうつう)):「①順調にいく。すらすらいく。②繁盛する。③運よく出世する。」(『新字源』P37)、ここでは①の意味で用いています。

※安泰(あんたい):「無事でやすらかなこと。また、そのさま、安穏(あんのん)。平穏。」(Webサイト『goo国語辞書』の「安泰」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/8656/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月十九日(金)))

※事事(じじ):「よろずのこと。いろいろなこと。」(『新字源』P30)

※既済(既濟)(きさい):易の六十四の卦の一つで、陰と陽が縞のようになっている卦の形で(図2)、各の爻(こう:卦を構成する陰陽を示す六本の線)が正しい位置(初(一番下)・三・五は陽、二・四・上(一番上)は陰)にあるために、「事がすでになっているさまにかたどる。」ようになっています。(「」内は『新字源』P458)

※離(り):「易の八卦の一つで、『電(稲妻)』『火』『灯り』『南』『明(明察)』などを表します。」

※雷電(らいでん):「かみなりと、いなずま。」(『新字源』P685)

※利益(利益)(りえき):「ためになる。」(『新字源』P114)

※貞正(ていせい):「節操がかたく、行ないが正しい。」(『新字源』P145)、つまり、「正しい心を持ち続けて、正しい行ないをする。」ということです。

※英明(えいめい):「すぐれて物事の理に明らかなこと。かしこいこと。」(『新字源』P846)

※実権(實權)(じつけん)(小書き文字を使うと「じっけん」):「形式的な権力ではなく、実際に有している権力。」(Webサイト『goo国語辞書』の「国運」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/98302/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月十九日(金)))

※国運(國運)(こくうん):「その国の運命。また、その国の勢い。国歩(こくほ)。」(Webサイト『goo国語辞書』の「国運」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/76695/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月十九日(金)))

※建侯(けんこう)(侯(きみ)を建(た)つ):「『侯(こう:諸侯(しょこう:王の配下で各地を治める君主))』を置いて国政を補佐させることです。」これは、屯卦(ちゅんか)の卦辞(かじ:卦を解説する言葉)とそれを更に解説する彖辞(たんじ)と初九(しょきゅう:卦の一番下の陽の爻(こう))の爻辞(こうじ:各々の爻を解説する言葉)にあります。

※謙譲(謙讓)(けんじよう(けんじやう))(小書き文字を使うと「けんじょう」):「へりくだる。へりくだり、人にゆずる。」(『新字源』P940)

※改革(かいかく):「従来の制度などを改めてよりよいものにすること。」(Webサイト『goo国語辞書』の「改革」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/35437/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月十九日(金)))

※端緒(たんしよ)(小書き文字を使うと「たんしょ」):「手がかり。いとぐち。はし。『たんちょ』は慣用読み。」(『新字源』P747)

※卒爾(そつじ)(=卒然(そつぜん)):「にわかに。不意に。だしぬけに。」(『新字源』P139)

※矯正(きようせい(けうせい))(小書き文字を使うと「きょうせい」):「ためなおす。曲がったものを正しくする。」(『新字源』P707)

※漸漸(ぜんぜん):「しだいに。徐々に進むさま。」(『新字源』P604)

※推移(すいい):「うつりかわる。」(『新字源』P419)

※仁慈(じんじ):「思いやりがあって情け深いこと。」(Webサイト『goo国語辞書』の「仁慈」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/114312/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年五月十九日(金)))

※黎明(れいめい):「明けがた。夜あけ。黎は比の意で、明けるにおよんで、夜明けになっての意。」(『新字源』P1165)

※遅遅(遲遲)(ちち):ここでは、「物事が進まないさま。」(『新字源』P1008)のことです。

※漸次(ぜんじ):「しだいに。だんだん。徐々に進むさま。」(『新字源』P604)


●解説:

 今回は易の六十四の卦の一つ、屯(ちゅん)の卦について、五言古詩の長い漢詩にしてみました。一韻到底格(いちいんとうていかく)は、一つの韻で長く連ねていくものです。偶数句の五文字目で韻を踏んでいます。

 屯の卦は人生の行き悩む状況での身の処し方について述べたものです。能力があっても地位が低くて行き悩む、高い立場にいながらも、行き悩む状況を打破する能力が無い、この二人が、高い立場にいる方が謙って自分の補佐につけることで、行き悩む状況を打破していく、という所と、

 実権を失った君主が、君主の恵みを民衆に行き渡らせることが出来なくなった時は、実権を握っている者を討伐するなど、俄かで速やかな方法を取るのではなく、自分の徳を高め、賢人を用いて次第次第に正していく、という所が漢詩を作っている中でも印象に残っている所でした。

 周囲に身を低くして過ごすこと、日々向上努力していくこと、この二点を常に念頭に置いて、これからも頑張っていきます。

以下、付録では今回の部分に関係する漢文の翻訳と解説です。


●付録:

○建侯(けんこう)(侯(きみ)を建(た)つ)に関連する部分

■屯(ちゅん)の卦を解説した卦辞(かじ)の現代語訳:

■原文:

屯、元亨利貞。勿用有攸往、利建侯。

■書き下し文:

 屯(ちゆん)、元亨利貞(げんかうりてい:元(おほ)いに亨(とほ)りて貞(ただ)しきに利(り)あり)。用(もち)ゐる勿(なか)れ往(ゆ)く攸(ところ) 有(あ)り、侯(きみ)を建(た)つるに利(り)あり。

「元(おほ)いに」の新仮名遣いは「元(おお)いに」
「亨(とほ)る」の新仮名遣いは「亨(とお)る」
「用(もち)ゐる」の新仮名遣いは「用(もち)いる」

■現代語訳:

 屯(ちゅん)の卦(図1)は、もし六三(りくさん:下から三番目の陰の爻(こう))が陽であれば、既済(きさい)の卦(図2)になり、これは各爻が正しい位置にある(初・三・五は陽、二・四・上は陰)ことになり、屯(ちゅん)の卦はその直前ということになって、事が既に成る前の理想の状態ということになり、元亨利貞(げんこうりてい:大いに道が行なわれて、物事が順調に行なわれて、大いに役に立つことになり、そのためには正しい気持ちを固く保つことが大切になるということ。)という四つの徳が屯卦(ちゅんか)にあるということになります。屯(ちゅん)の卦の形は「坎(かん:☵)」の下に「震(しん:☳)」があり、険しい中(坎(かん)の中)を行動する(震(しん))必要があり、行き悩むことになります。本来行くべき所があっても、そこに行き着くことは無いのです。そこで、自分(王)を補佐してくれる諸侯(しょこう:王の配下で、各地を治める君主)を新たに置いて、補助してもらうことによって、物事がうまくいって世の中の役に立つことが出来るのです。

(行き悩む困難に立ち向かう時は、良師や良友の助けが要る、ということがあるということです。)


■屯(ちゅん)の卦の彖伝(たんでん:卦辞(かじ)を更に解説したもの)の現代語訳:

■原文:

彖曰、「屯、剛柔始交而難生、動乎險中。大亨貞、雷雲之動滿盈。天地草昧、宜建侯而不寧。」

■書き下し文:

 彖(たん) 曰(いは)く、「屯(ちゆん)、剛柔(がうじう) 始(はじ)めて交(まじ)はりて、而(しかう)して難(なん) 生(しやう)じ、險中(けんちゆう)に動(うご)く。大(おほ)いに亨(とほ)りて貞(てい)、雷雨(らいう) 滿盈(まんえい)に動(うご)く。天(てん) 草昧(さうまい)に造(いた)り、宜(よろ)しく侯(きみ)を立(た)てて寧(やす)からざるべし。」と。

「滿」の新字体は「満」
「曰(いは)く」の新仮名遣いは「曰(いわ)く」
「剛(がう)」の新仮名遣いは「ごう」
「柔(じう)」の新仮名遣いは「じゆう(小書き文字を使うと『じゅう』)」
「生(しやう)じ」の新仮名遣いは「生(しよう)じ(小書き文字を使うと『生(しょう)じ』)」
「大(おほ)いに」の新仮名遣いは「大(おお)いに」
「草(さう)」の新仮名遣いは「草(そう)」

※草昧(そうまい(さうまい)):「世の開けはじめで、秩序がまだたたない状態。」(『新字源』P853)

■現代語訳:

屯(ちゅん)の卦を解説する卦辞(かじ)を更に解説した彖伝(たんでん)では、次のように述べています。

「屯(ちゅん)の卦は乾卦(けんけ)と坤卦(こんけ)の後に位置し、剛(ごう:陽の気の果断な性質)と柔(じゅう:陰の気の周囲と調和する性質)が始めて交わって、そして難所(坎(かん:☵))で行動する(震(しん:☳))ことになるのです(乾(けん:☰)を父親、坤(こん:☷)を母親とすると、震(しん:☳)は長男、坎(かん:☵)は次男で、どちらも乾(けん)と坤(こん)の子となります。)。屯(ちゅん)の卦の形(雲(坎(かん:☵))の下で雷(震(しん:☳))が鳴る)から考えると、雲が空を覆って雷がゴロゴロ鳴るという状況であり、天と地が交わっても、それが行き渡ることが未だ無い状況です。それが六三(りくさん)の爻(こう)が九三(きゅうさん)になる(下から三番目の爻(こう)が陰から陽になる)ことで、既済(きさい)の卦になり、その形(坎(かん:☵)の下に「離(り:☲)」)から「雲(坎(かん:☵))の下で、実際に稲妻が走る」ことにより、それをきっかけに雨が降り、あらゆる物事を通してあらゆる物事の成長を成し遂げるのです。雷雨が稲妻と共に完成して、あらゆる物事を潤して成長させるための条件が満たされて、実際の行動となることになります。天の時(天の巡り会わせ)は、陰の気に陽の気が交わって世の闇が明け始める頃で、秩序が未だ立たない状態にあり、きちんと世の中を治めるためには、新たに自分(王)を補佐する諸侯(しょこう:王の配下で、各地を治める君主)を置いて、実際に補佐をさせて、そのような状況を整えた上で、安心することが無い(常に心配をして気を配る)ようにするのが良いのです(そのように、良師良友の助けを借りて、困難な物事を乗り越えるのが良いということです。)(もちろん自分の努力は必要ですが、人の助けが要る局面もあるということです。)。」

と。


■初九(しょきゅう)の爻辞(こうじ:各爻を解説する言葉)と象伝(しょうでん)の現代語訳:

■原文:

初九、磐桓、利居貞、利建侯。

象曰、「雖磐桓、志行正也。」

■書き下し文:

 初九(しよきう)、磐桓(ばんかん)す、貞(てい)に居(を)るに利(り)あり、侯(きみ)を建(た)つるに利(り)あり。

 象(しやう) 曰(いは)く、「磐桓(ばんかん)すと雖(いへど)も、志(こころざし) 正(ただ)しきを行(おこな)ふなり。」と。

「九(きう)」の新仮名遣いは「きゆう(小書き文字を使うと『きゅう』)」
「居(を)る」の新仮名遣いは「居(お)る」
「象(しやう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「雖(いへど)も」の新仮名遣いは「雖(いえど)も」
「行(おこな)ふ」の新仮名遣いは「行(おこな)う」

※磐桓(ばんかん(ばんくわん)):「進みにくく、ぐずぐずするさま。ぐるぐるめぐるさま。」(『新字源』P715)

■現代語訳:

 初九(しょきゅう:一番下の陽の爻(こう))の爻辞では、次のように述べています。

「初九(しょきゅう)は、この屯難(ちゅんなん)の行き悩む状況を打破する能力を持ちながらも、地位が低いために物事をぐずぐずして進め難い状況にあります。このような状況では、正しい心を固く保つことで、物事が上手くいき、世の中の役に立つことが出来るようになるのです。この初九(しょきゅう)の人物は、高い能力を持ちながら(初は陽が正しい位置)、周囲に謙る(一番下の爻(こう))優れた人物であり、この人物を、王を補佐する諸侯(しょこう:王の配下で、各地を治める君主)として置くことにより、物事が上手くいき、世の中の役に立たせることが出来るのです。」

と。

 更に初九(しょきゅう)の爻辞(こうじ)を解説する象伝(しょうでん)には、次のように述べています。

「物事がぐずぐずして進められない状況であったとしても、志は腐ること無く、正しい物事を行なうことが出来るのです。」

と。


■六四(りくし)の爻辞(こうじ)と象伝(しょうでん)の現代語訳:

■原文:

六四、乘馬班如、求婚媾。往吉、无不利。

象曰、「求而往、明也。」

■書き下し文:

 六四(りくし)、乘馬(じようば)、班如(はんじよ)たり、婚媾(こんこう)を求(もと)む。行(ゆ)けば吉(きち)にして、利(り)あらざる无(な)し。

 象(しやう) 曰(いは)く、「求(もと)めて往(ゆ)く、明(めい)なり。」と。

「乘」の新字体は「乗」

ここで、清(しん)の李翊灼(りよくしゃく)の『周易虞氏義箋訂(しゅうえきぐしぎせんてい)』巻之二の六二(りくじ:下から二つ目の陰の爻(こう))では、『子夏易伝(しかえきでん)』を引いて、

□原文:

『子夏傳』曰、「如、辭也。班如、相牽不進貌。」

□書き下し文:

 『子夏傳(しかでん)』云(いは)く、「如(じよ)、辭(じ)なり。班如(はんじよ)、相(あひ) 牽(ひ)ひて進(すす)まざる貌(さま)。」と。

「傳」の新字体は「伝」

□現代語訳:

 『周易(しゅうえき)』の、孔子(こうし)の門人の子夏(しか)による注解には、次のように述べています。

「『如(じょ)』は辞(じ:語助辞)です。『班如(はんじょ)』は、相手に引き止められて進まない様子を指します。」

※語助(ごじよ)(小書き文字を使うと「ごじょ」):「意味はなく、単に語勢を助けるために用いられる語助詞〔ごじょし〕。語助字〔ごじょじ〕。」(『新字源』P930)(語助詞(ごじょし)は語助辞(ごじょじ)と同義。)

■現代語訳:

 六四(りくし:下から四番目の陰の爻)の爻辞(こうじ)では、次のように述べています。

「六四(りくし)は、英明の君主(九五(下から五番目の陽の爻))に近い立場にいて、その君主に従順に使えていて、優れた上司を得ていることになります。しかしながら、その能力は屯難(ちゅんなん)の行き悩む状況を救うことは出来ない(陰の爻で、中(二・五の位置)には無いので、従順が過ぎて適切ではないのです。)ので、自力で進もうとしても進まない状況になってしまいます。しかしながら自分の立場をわきまえつつ、周囲に謙って、初九(しょきゅう)のような低い立場の者に謙ることにより、女性が縁組を求めるように、初九(しょきゅう)のような低い立場の者を抜擢することにより(四と初は陰と陽で三爻離れていて応(おう)の関係にあります。)、上手くいって役立たないことが無い(上手くいって役に立つ)のです。

(高い立場にいて能力が解決に及ばない時は、周囲に謙って助けを求めるために、己を虚しくする必要があるのです。)」

と。

 また、その爻辞(こうじ)を更に解説した象伝(しょうでん)には、次のように述べています。

「(自分の能力が及ばないために)周囲に謙って人を求め、そして物事を行なう、というのは、道理に明るい明察というものです。」

と。


■九五(きゅうご)の爻辞(こうじ)と象伝(しょうでん)の現代語訳:

■原文:

九五、屯其膏、小貞吉、大貞凶。

象曰、「屯其膏、施未光也。」

■書き下し文:

 九五(きうご)、其(そ)の膏(あぶら)を屯(とどこほ)らす、小貞(せうてい)なれば吉(きち)、大貞(だいてい)なれば凶(きよう)。

 象(しやう) 曰(いは)く、「其(そ)の膏(あぶら)を屯(とどこほ)らすは、施(ほどこ)し未(いま)だ光(おほ)いならざるなり。」と。

「屯(とどこほ)らす」の新仮名遣いは「屯(とどこお)らす」

※膏沢(膏澤)(こうたく(かうたく)):「めぐみ。うるおい。」(『新字源』P826)

■現代語訳:

 九五(きゅうご:下から五番目の陽の爻)の爻辞(こうじ)は、次のように述べています。

「君主の膏沢(こうたく:恵み)を滞らせてしまう、つまり、君主が実権を失って、君主の恵みが民衆に行き届かない状況にあるのです。この状態では、自分の徳を修めて賢人を用い、次第次第にこれを正していくのが良く、これを『小貞(しょうてい)なれば吉(きち)』と言っているのです。しかしながら、それを俄かに正す、つまり実権を握っている重臣を討伐するなどして、速やかに正そうとすると、それは凶に進むことになるのです。これを『大貞(だいてい)なれば凶(きょう)』と言っているのです。

(ちなみに、全く目下の状況に目もくれずに放置していた場合、滅びの道を辿ることになり、凶どころの話では無くなるのです。)」

と。

 また、その爻辞(こうじ)を更に解説した象伝(しょうでん)では、次のように述べています。

「君主が実権を失って、君主の恵みが民衆に行き届かない状況にあるのは、君主の民衆への施しが、未だ広く行き渡っておらず、光大(こうだい:光り輝いて盛ん)なものにまでなっていない、ということです。」

※光大(こうだい(くわうだい)):「光りかがやいてさかんなこと。」(『新字源』P86)


 以上、建侯(けんこう:侯(こう:諸侯(しょこう:王の配下で、各地を治める君主))を置いて、国政を補佐させること)を中心にまとめますと、行き悩む状況を打破するためには、建侯を行なう必要があって、その人物として適当なのが初九(しょきゅう:初は社会でまだ用いられていない立場で、初は陽爻が正しいので、高い能力があり、それでいて一番下の立場で謙って過ごしている)であり、その人物を、六四(りくし)の大臣(陰の爻で、行き悩む状況を打破する能力はなく、それでも四は陰爻が正しい位置で、謙って人物を求める)が謙って建侯(けんこう)として迎えるのです。

 更に九五は実権を失って君主の恵みが民衆に行き届かない状況で、そんな時は権力を握っている者を討伐するなどして俄かに改めるのではなく、自分の徳を修めて賢人を用いて、次第次第に正していくのが正しいということです。

(ちなみに、漢詩の詩句の中の魯(ろ)の昭公(しょうこう)は俄かに正そうとして失敗した前者の例、殷(いん)の盤庚(ばんこう)は善政をして少しずつ正していった後者の例です。)


○清(しん)の惠棟(けいとう)『易例(えきれい)』の「元亨利貞皆言既濟」より:

(屯(ちゅん)の卦の卦辞(かじ)が「元亨利貞(げんこうりてい)となる理由をまとめた部分です。」)

(タイトルの意味は、「元亨利貞(げんこうりてい) 皆(みな) 既濟(きさい)を言(い)ふ(『元亨利貞(げんこうりてい)』は皆、その卦の爻が変化すれば既済(きさい)の卦になることから言うのです。)」)

「言(い)ふ」の新仮名遣いは「言(い)う」

○原文:

「屯、元亨利貞。」『述』云、「坎二之初、六二乘初、五爲上弇、故名屯。三變之正、故元亨利貞。」

屯彖傳曰、「雷雨之動滿形。」虞註云、「震雷坎雨、坤爲形也。謂三已反正、成既濟、坎水流坤、故滿形。謂雷動雨施、品物流形也。」

○書き下し文:

 「屯(ちゆん)、元亨利貞(げんかうりてい:元(おほ)いに亨(とほ)りて貞(てい)なるに利(り)あり)。」と。

 『述(じゆつ)』云(いは)く、「坎(かん) 二(に)の初(しよ)に之(ゆ)く、六二(りくじ) 剛(がう)に乘(じやう)ず、五(ご) 上(うへ)に弇(おほ)はれ、故(ゆゑ)に屯(ちゆん)と名(な)づく。故(ゆゑ)に元亨利貞(げんかうりてい)。」と。

 屯(ちゆん)の彖傳(たんでん) 曰(いは)く、「雷雨(らいう)の動(うご)きて形(かたち)を滿(み)たす。」と。

 虞註(ぐちゆう) 云(いは)く、「震雷(しんらい) 坎雨(かんう)、坤(こん) 形(かたち)を爲(な)すなり。三(さん) 已(すで)に正(せい)に反(かへ)ると謂(い)ひて、既濟(きさい)を成(な)し、坎水(かんすい) 坤(こん)に流(なが)る、故(ゆゑ)に形(かたち)を滿(み)たす。雷(らい) 動(うご)き雨(あめ) 施(ほどこ)し、品物(ひんぶつ) 流形(りうけい)なりと謂(い)ふ。」と。

「乘(じやう)ず」の新仮名遣いは「乘(じよう)ず」

○現代語訳:

 「屯(ちゅん)は元亨利貞(げんこうりてい:大いに道が行なわれて、物事が順調に行なわれて、大いに役に立つことになり、そのためには正しい気持ちを固く保つということが大切だということ)です。」

と、屯卦(ちゅんか)の卦辞(かじ)にあります。清(しん)の惠棟(けいとう)の『周易述(しゅうえきじゅつ)では、次のように言っています。

「坎(かん:図3)の九二(きゅうじ:下から二番目の陽の爻)が初爻(しょこう:一番下の爻)に行くことにより、屯(ちゅん)の卦になるのです。

(乾(けん:☰を二つ重ねた形、父)と坤(こん:☷が二つ重なった形、母)が交わって坎(かん:☵を二つ重ねた形、次男)が生まれてから坎(かん)の九二(きゅうじ)が初爻(しょこう)に移って、屯(ちゅん)の卦が生じたものです。)

屯の卦の六二(りくじ:下から二番目の陰の爻)は剛(初九(しょきゅう:一番下の陽の爻)の果断な性質)を(立場の上で)凌いで、九五(きゅうご:下から五番目の陽の爻)は上六(じょうろく:一番上の陰の爻)に覆われてしまい、初九(しょきゅう)と九五(きゅうご)の二つの陽爻(ようこう)が行き悩むことになります。ですからその行き悩むことから屯(ちゅん)と名付けているのです。六三(りくさん:下から三番目の陰の爻)が変化して正しい所に行く(既済(きさい)の卦になって、六爻(りくこう)がすべて正しい位置(初・三・五は陽、二・四・上は陰)ことになります。その完成された各爻の直前にあるということを屯(ちゅん)の卦は意味し、そこから、元亨利貞(げんこうりてい)の)四つの徳が屯(ちゅん)の卦にあることを意味しているのです。」

と。

 屯の卦辞(かじ)を元に解説した彖伝(たんでん)は、次のように言っています。

「雷雨が動く、つまり雷雨が大地に降り注ぐことで、大地の形を満たすように、水が流れていくのです。」

と。

 その彖伝(たんでん)の、呉(ご)の虞翻(ぐほん)の註釈には、以下のように述べています。

「震(しん:☳)の雷、坎(かん:☵)の雨(坎(かん)は水を示し、五行(ごぎょう)でも水です。)によって、坤(こん:☷)の大地を描くように水が流れて行きます。三が既に正に返る(三が陽爻になって、既済(きさい:図2)の卦の正しい位置(初・三・五は陽、二・四・上は陰)に来る)ことによって、坎(かん)の水(既済卦(きさいか)の互卦(ごか:上から五・四・三で外卦(がいか:上半分の八卦)、四・三・二で内卦(ないか:下半分の八卦)の爻で構成する、元の卦の中に隠された性質になる卦)は未済(びさい:図3)で内卦(ないか)は坎(かん:☵)で水を示す)が坤(こん)の大地(坎卦の互卦(ごか)は剝(はく:図4)で内卦(ないか)は坤(こん)で大地を示す)に流れて行くことになります。ですから、大地の形を満たすように水が流れて行くのです。そして、雲が動く(三が陽爻になることで、内卦(ないか)が震(しん:☳)の雷から離(り:☲)の稲妻へ変化する)ことにより、雨を施し(坎(かん:☵)の雲から雨が降る)、あらゆる物事がいろいろな形をして現れる(雨によってあらゆる物事を描き出すように水が流れる)と言うのです。」

と。

未済.png

図3:未済(びさい)の卦の形


剝.png

図4:剝(はく)の卦の形


 以上より、「元亨利貞(げんこうりてい)」になる理由は、屯(ちゅん)の卦(図1)の六三(りくさん:下から三番目の陰の爻)が、九三の陽の爻になることで、物事が既に成るということを示す既済(きさい)の卦(図2)となり、六爻全てが正しい位置(初・三・五は陽、二・四・上は陰)に来る状況です。屯(ちゅん)の卦はその一つ手前という理想の状況であるため、元亨利貞(げんこうりてい)の四つの徳がある、ということです。

 更に漢易では、屯(ちゅん)の卦の彖辞(たんじ)は「雷雨之動滿形」となり、一般の「雷雨之動滿盈」とは異なっていて、それは屯(ちゅん)の内卦(ないか:下半分の八卦)が震(しん:☳)で既済(きさい)の内卦(ないか)が離(り:☲)で、震(しん)の雷鳴が離(り)の稲妻となって実際に雷が発生することで、共通の外卦(がいか:上半分の八卦)である坎(かん)から雨が降り、屯(ちゅん)の互卦(ごか:剝(はく:図4))の内卦(ないか)の坤(こん:☷)に、既済(きさい)の互卦(ごか:未済(びさい:図3))の内卦(ないか)の坎(かん:☵)の水(坎(かん)は水を示し、五行(ごぎょう)でも水)が降り注いで「満形(滿形)(形を満たす)」、つまり大地の形を描くように、水が流れて行く、ということになっているのです。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント

  • 泥舟

    おはようございます

    なるほど。人生は上手くいかないことばかり。
    そんな時に無理をしたってうまくいくはずもない、と私も実体験で思います。
    もう一度考えると、上手く行かない迄のプロセスがそこにあるわけで
    そもそも、そこを改善するには
    正しい行いや考えをしないといけませんよね。
    なんだか奥深いお話でした。
    2017年05月26日 07:10
  • 佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

    > 泥舟さん

    おはようございます。温かいコメントをありがとうございます。

    はい。最終的な結果だけを悔やんでも、
    その人自身の改善にさえならない、そんな風に思います。

    この苦しい状況の中でも大切になってくるのが、
    「貞正」という言葉になります。
    この言葉は、正しい気持ちを固く守って、
    正しい行ないをするという意味です。

    前途が開けない中でこそ、
    この言葉を噛み締めることが大切だと私自身思っています。

    そして自分や周囲の状況を俄かに改めるのではなく、
    心を正しく保ち、正しい行ないをしていって、
    少しずつ状況を改善していくのが良いという言葉です。

    これは普段から気を付けていくこととして、
    私自身にも戒めとしていく言葉だなと思います。

    漢文の学問は、昔の言葉を今を生きる自分自身の
    身の回りの事に照らして考えて、
    少しずつ自分の中に活きた道理として理解出来て来る、
    そんな学問ですので、
    日々少しずつでも進歩していければ良いなと思います。
    これからもしっかりと頑張っていきます。

    良い金曜日の一日をお過ごし下さい。
    2017年05月26日 09:46