漢詩「夏雨偶成」(七言律詩)

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●原文:

 夏雨偶成  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

今 朝 遠 聽 一 鳴 雷  正 喜 農 人 降 雨 魁

祈 願 豐 年 天 意 仰  憂 懼 旱 日 壯 心 摧

秧 田 淅 淅 風 將 起  荷 露 團 團 香 自 催

近 見 電 光 村 落 裏  髙 歌 欲 酌 酒 三 杯


●書き下し文:

 題:「夏雨(かう) 偶成(ぐうせい)」

今朝(けさ) 遠(とほ)く一鳴(いちめい)の雷(かみなり)を聽(き)き
正(まさ)に喜(よろこ)ぶ農人(のうじん) 降雨(かうう)の魁(さきがけ)

豐年(ほうねん)を祈願(きぐわん)して天意(てんい) 仰(あふ)ぎ
旱日(かんじつ)を憂懼(いうく)して壯心(さうしん) 摧(くだ)く

秧田(あうでん) 淅淅(せきせき)と風(かぜ) 將(まさ)に起(お)こらんとし
荷露(かろ) 團團(だんだん) 香(かを)り自(おのづか)ら催(もよほ)す

近(ちか)く電光(でんくわう)を見(み)る村落(そんらく)の裏(うち)
髙歌(かうか) 酌(く)まんと欲(ほつ)す酒(さけ) 三杯(さんばい)

「聽」の新字体は「聴」、「豐」の新字体は「豊」、「壯」の新字体は「壮」、「將」の新字体は「将」、「團」の新字体は「団」、「髙」の新字体は「高」
「遠(とほ)く」の新仮名遣いは「遠(とお)く」
「降(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「願(ぐわん)」の新仮名遣いは「がん」
「仰(あふ)ぎ」の新仮名遣いは「仰(あお)ぎ」
「憂(いう)」の新仮名遣いは「ゆう」
「壯(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「秧(あう)」の新仮名遣いは「おう」
「香(かを)り」の新仮名遣いは「香(かお)り」
「自(おのづか)ら」の新仮名遣いは「自(おのずか)ら」
「催(もよほ)す」の新仮名遣いは「催(もよお)す」
「光(くわう)」の新仮名遣いは「こう」
「髙(かう)」の新仮名遣いは「こう」


●現代語訳:

 題:「夏の雨の日にふと思いついて出来た漢詩です」

 今朝、遠くで一度雷が鳴るのを聴きました。
 正にこれは、農業をする人が喜ぶ、雨が降る一番目の印なのです。

 穀物の収穫が多い年であることを祈り願って、あらゆる物事を創造する神である天帝(てんてい)の意志を尊び、
 雨が長い間降らない日照りの日を憂え恐れて、雄々しくて力強く知勇が優れた人の志を挫いていました。

 稲の苗を育てる田で、淅淅(せきせき)と音がして風が今まさに起ころうとしていて、
 蓮の葉の上の露が集まって、香りが自然に起こってきていました。

 近くに稲光を見る村の中では、
 大声で歌を歌って、三杯の酒を酌もうとしていました。


●語注:

(以下、『新字源』は1994年(平成六年)十一月十日発行の改訂版を引用しています。)

(以下、海外のWebサイトのURLは、リンクを防止するために「:(コロン)」を全角にしています。)

※偶成(ぐうせい):「ふと思いついてできる。また、その作品。」(『新字源』P74)

※魁(さきがけ):ここでは、「まっさき。第一番目。」(『新字源』P449の「魁」の字の④)のことです。

※豊年(豐年)(ほうねん)(=豊歳(豐歳)(ほうさい)):「穀物の収穫の多い年。」(『新字源』P948)

※祈願(きがん(きぐわん)):「いのり願う。」(『新字源』P719)

※天意(てんい):「①天帝〔てんてい〕の意志。②帝王の意志。」(『新字源』P241)

※天帝(てんてい):「①宇宙を支配する神。造物主〔ぞうぶつしゆ(ざうぶつしゆ)(小書き文字を使うと『ぞうぶつしゅ』)〕。②北極星の名。小熊〔こぐま〕座のベーター星。」(『新字源』P243)、ここでは、①の意味で用いています。

※造物主(ぞうぶつしゆ(ざうぶつしゆ))(小書き文字を使うと「ぞうぶつしゅ」):「万物を創造する神。」(『新字源』P999)

※旱日(かんじつ):「ひでりの日。雨が長いあいだふらない日。」

※憂懼(ゆうく(いうく)):「うれえおそれる。」(『新字源』P386)

※壮心(壯心)(そうしん(さうしん)):「雄壯豪邁的志向。」(Webサイト『漢典(かんてん)』の「壯心」の検索結果 < http://www.zdic.net/c/e/157/344168.htm > (アクセス日:平成二十九年六月八日(木)))、つまり、「雄々しくて力強く、知勇が優れた人の心の向く所。」
のことです。

※雄壮(雄壯)(ゆうそう(ゆうさう)):「おおしくて力強い。勇ましくてさかん。」(『新字源』P1077)

※豪邁(ごうまい(がうまい)):「知勇がすぐれてえらい。英邁。」(『新字源』P950)

※志向(しこう(しかう))(=志趣(ししゆ)(小書き文字を使うと「ししゅ」)):「心の向くところ。こころばせ。意向。」(『新字源』P359)

※秧田(おうでん(あうでん)):「いねのなえを育てる田。苗代〔なわしろ〕。」(『新字源』P731)

※淅淅(せきせき):「①風の音のさま。②鈴などの音のさま。」(『新字源』P591)、ここでは、①の意味で用いています。

※荷露(かろ)(=荷殊(かしゆ)(小書き文字を使うと「かしゅ」)):「はすの葉の上におくつゆ。」(『新字源』P855)

※団団(團團)(だんだん):「①まるいさま。②つゆの結ぶさま。」(『新字源』P203)、ここでは、②の意味で用いています。

※電光(でんこう(でんくわう)):ここでは、「いなずま。いなびかり。」(『新字源』P1085)のことです。

※村落(そんらく):「むら。落は、人の集まっている所の意。聚落〔しゆうらく(小書き文字を使うと『しゅうらく』)〕」(『新字源』P491)

※高歌(髙歌)(こうか(かうか)):「大聲歌唱。」(Webサイト『漢典(かんてん)』の「高歌」の検索結果 < http://www.zdic.net/c/8/30/74045.htm > (アクセス日:平成二十九年六月八日(木)))、つまり、「大声で歌を歌うこと。」を意味しています。


●解説:

 今回は、夏の雨の日にふと思いついて出来た七言律詩の漢詩です。

 この七言律詩は、私が所属している漢詩の会の浪速菅廟吟社(なにわかんびょうぎんしゃ)の七月のもう一つの課題である「夏雨聽雷(夏雨(かう) 雷(かみなり)を聴(聽)(き)く:夏の雨の日に雷を聴く)」という七言絶句をまず作って(一句目・二句目・七句目・八句目)、それに二組の語呂合わせの句である対句(ついく)(三句目と四句目、五句目と六句目の二組)を作って七言律詩としたものです。

 今朝に遠くで一度雷が鳴り、それは農業をする人が喜ぶ雨の前兆であることを述べ、豊作を祈って、万物を創造する神である天帝(てんてい)を尊び、雨が降らない日照りの日を心配して、雄々しく力強く、知勇が優れた人の志を挫いていたことを述べ、稲の苗を育てる田で風が今まさに起ころうとしていて、蓮の露から香りが自然に起こって来て、村の中では近くに稲光を見ながら大声で歌を歌い、三杯の酒を酌もうとしていた、という風に漢詩を作っていました。

 一般に、雷の多い年は豊作になると言われています。今年も度々雷の音を聴いていますので、今年も豊作になると良いなと思います。これからも夏の様々な風物を漢詩に出来るように、普段の勉強と共に頑張っていきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

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