漢詩「夏夜偶成」(七言律詩)

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●原文:

 夏夜偶成  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

夜 出 東 郊 暑 熱 收  行 尋 涼 處 坐 山 樓

炎 威 日 午 天 光 灼  爽 氣 宵 分 月 色 幽

揮 筆 遠 望 千 戸 檠  懷 詩 微 聽 一 溪 流

得 描 全 景 成 書 畫  風 韻 來 爲 條 幅 秋


●書き下し文:

 題:「夏夜(かや) 偶成(ぐうせい)」

夜(よる) 東郊(とうかう)に出(い)でて暑熱(しよねつ) 收(をさ)まり
行(ゆくゆく) 涼處(りやうしよ)を尋(たづ)ねて山樓(さんろう)に坐(ざ)す

炎威(えんゐ)の日午(にちご) 天光(てんくわう) 灼(しやく)たり
爽氣(さうき)の宵分(せうぶん) 月色(げつしよく) 幽(いう)たり

筆(ふで)を揮(ふる)ひて遠(とほ)く望(のぞ)む千戸(せんこ)の檠(けい)を
詩(し)を懷(おも)ひて微(かす)かに聽(き)く一溪(いつけい)の流(なが)れを

描(えが)くを得(え)て全景(ぜんけい) 書畫(しよぐわ)と成(な)り
風韻(ふうゐん) 來(きた)りて條幅(でうふく)の秋(あき)と爲(な)る

「收」の新字体は「収」、「樓」の新字体は「楼」、「氣」の新字体は「気」、「懷」の新字体は「懐」、「聽」の新字体は「聴」、「溪」の新字体は「渓」、「畫」の新字体は「画」、「來」の新字体は「来」、「條」の新字体は「条」、「爲」の新字体は「為」
「郊(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「收(をさ)まり」の新仮名遣いは「收(おさ)まり」
「涼(りやう)」の新仮名遣いは「りよう(小書き文字を使うと『りょう』)」
「尋(たづ)ねて」の新仮名遣いは「尋(たず)ねて」
「威(ゐ)」の新仮名遣いは「い」
「光(くわう)」の新仮名遣いは「こう」
「爽(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「宵(せう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「幽(いう)」の新仮名遣いは「ゆう」
「揮(ふる)ひて」の新仮名遣いは「揮(ふる)いて」
「遠(とほ)く」の新仮名遣いは「遠(とお)く」
「懷(おも)ひて」の新仮名遣いは「懷(おも)いて」
「畫(ぐわ)」の新仮名遣いは「が」
「韻(ゐん)」の新仮名遣いは「いん」
「條(でう)」の新仮名遣いは「じよう(小書き文字を使うと『じょう』)」


●現代語訳:

 題:「夏の夜にふと思いついて出来た漢詩です」

 夜に、都市の東の郊外に出ると、夏の暑さが収まっていて、
 道を行きながら、涼しい所を尋ねて、山上に造った高い建物に坐りました。

 厳しい暑さの正午は、空一面に日の光が明るく輝いていて、
 爽やかな空気の夜の半ばには、月の光が仄かに輝いていました。

 筆を揮って遠くの多くの家々の灯火を見渡し、
 漢詩を考えて、微かな一本の谷川の流れを聴いていました。

 描くことが出来て、ここから見える全体の景色は書と絵画になり、
 風の音がやって来て、画仙紙(がせんし)の半切(はんせつ:縦に半分に切ったもの)に書かれた軸物の書と絵画による秋となっていました。


●語注:

※偶成(ぐうせい):「ふと思いついてできる。また、その作品。」(『新字源』P74)

※東郊(とうこう(とうかう)):「都市の東の郊外。」(Webサイト『goo国語辞書』の「東郊」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/155631/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))

※暑熱(しよねつ)(小書き文字を使うと「しょねつ」):「夏の暑さ。炎暑〔えんしよ(小書き文字を使うと『えんしょ』)〕。炎熱〔えんねつ〕。」(Webサイト『goo国語辞書』の「東郊」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/111829/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))

※炎暑(えんしよ(小書き文字を使うと「えんしょ」)):「焼けつくような暑さ。厳しい暑さ。」(『新字源』P690)

※炎熱(えんねつ):「1 燃え盛る火の暑さ。2 夏の厳しい暑さ。炎暑〔えんしよ(小書き文字を使うと『えんしょ』)〕。」(Webサイト『goo国語辞書』の「炎熱」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/26773/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))、ここでは、2の意味で用いています。

※山楼(山樓)(さんろう):「山上に造った高い建物。山閣〔さんかく〕。」(Webサイト『goo国語辞書』の「山楼」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/92351/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))

※山閣(さんかく):「山の中のたかどの。」(『新字源』)

※炎威(えんい(えんゐ)):「はげしい暑さ」(『新字源』P616)

※日午(にちご):「まひる。正午。」(『新字源』P459)

※天光(てんこう(てんくわう)):「天の光。空一面にかがやく日の光。」(『新字源』P241)

※爽気(爽氣)(そうき(さうき)):「1 さわやかな空気。秋の涼気などにいう。2 すがすがしい気分。」(Webサイト『goo国語辞書』の「爽気」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/128217/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))、ここでは、1の意味で用いています。

※宵分(しようぶん(せうぶん))(小書き文字を使うと「しょうぶん」):「夜のなかば。夜半。」(『新字源』P279)

※月色(げつしよく)(小書き文字を使うと「げっしょく」)(=月影(げつえい)):「月の光。」(『新字源』P480)

※千戸(せんこ):ここでは、「多くの家々。」のことです。

※全景(ぜんけい):「その場所から見える全体の景色。」(Webサイト『goo国語辞書』の「全景」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/125981/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))

※書画(書畫)(しよが(しよぐわ))(小書き文字を使うと「しょが」):「書と絵画。」(Webサイト『goo国語辞書』の「書画」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/110715/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))

※風韻(ふういん(ふうゐん)):「①けだかい人がら。みやびやかなおもむき。②風の音。」(『新字源』P1109)、ここでは、②の意味で用いています。

※条幅(條幅)(じようふく(でうふく))(小書き文字を使うと「じょうふく」):「画仙紙(がせんし〔ぐわせんし〕)の半切(はんせつ)にかかれた書画を軸物〔じくもの(ぢくもの)〕にしたもの。」(Webサイト『goo国語辞書』の「条幅」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/109964/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))

※半切(はんせつ):「唐紙などをたてに半分に切ったもの。」(『新字源』P138)

※画仙紙(がせんし(ぐわせんし)):「白色大判の書画の用紙。中国、安徽(あんき)省宣城の原産。玉版箋(ぎょくはんせん)、青六疋(せいろっぴき)、二層紙(にそうし)、煮硾箋(についせん)などの種類がある。」(Webサイト『goo国語辞書』の「画仙紙」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/41467/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))

※軸物(じくもの(ぢくもの)):「床の間などに掛けるため、掛け軸として表装した書画。掛け物。また、巻子本〔かんすぼん(くわんすぼん)〕や絵巻物など。」(Webサイト『goo国語辞書』の「軸物」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/95385/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))

※巻子本(卷子本)(かんすぼん(くわんすぼん)):「紙や布を横に長くつなげ、末端に軸をつけて巻き込むようにした書物。巻き本。けんすぼん。かんしぼん。」(Webサイト『goo国語辞書』の「巻子本」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/48632/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十一日(日)))


●解説:

 今回は、夏の夜にふと思いついた七言律詩の漢詩です。

 夏の夜に都市の東の郊外に行くと暑さが収まり、涼しい所を尋ね歩いて、山の上の高い建物に坐り、厳しい暑さの正午には日の光が空一面に輝いて、爽やかな空気の夜の半ばには月の光が仄かに光っていることで、日中と夜の対比を感じ、筆を揮って遠くの多くの家々の灯火を見渡して描き、漢詩を考えて微かな一本の谷川の流れを聴いて漢詩にする、そうして全体の景色が書と絵画となって完成し、風の音がやって来ると、そうして出来た軸物の書と絵画による秋になった、そんな気持ちを漢詩にしてみました。

 真夏になれば日中は暑いとは思いますが、夜は涼しく過ごせると良いなと思います。これからも夏の風景をしっかりと漢詩に出来るように、普段の勉強と共に頑張っていきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント

  • 美舟

    こんばんは!
    美舟です。
    こちらのお作品。
    なんと美しい情景なのでしょう。
    このような世界観で私も書道や絵ができたらな〜なんてつい想像してしまいました。
    本当に素晴らしいです!
    さて、お知らせです。
    私事で失礼致します。
    今まで美泥ブログとしてやってましたが、泥舟さんと私の個人ブログを持つことにしました。
    今までの美泥ブログを泥舟さんの新しい個人ブログに。
    私は新しいブログを作り、そこを美舟個人ブログとしました。
    ホームページアドレスのところにアドレス記載で良かったのかな?と思い、一応ブログのアドレスを記載しております。
    またお時間ある時にでもお立ち寄り下さいませ。
    改めて、どうぞ今後とも宜しくお願い致します。
    素晴らしい作品を、今後も拝見できること、楽しみにしております。
    2017年06月13日 03:33
  • 佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

    > 美舟さん

    おはようございます。温かいコメントをありがとうございます。

    はい。漢詩に出て来る情景を書と絵に出来たらどれほど綺麗だろうと、
    そういう場面を思い浮かべて漢詩を作っていました。
    高い所から眺めての風景、谷川の流れなどから、
    絵画や、あるいは漢詩として書にすることで、
    季節までも先取りするのではという思いを漢詩にしました。
    こういう風景や人の有様までも、七言律詩の中で
    きちんと描くようになれれば良いなと思います。

    美舟さんと泥舟さんがブログを分けたのですね。
    またお二方のブログにも訪問いたします。

    お二人の創作には、私も意欲が掻き立てられます。
    体調を整えつつ、これからもしっかりと頑張っていきます。

    良い火曜日の一日をお過ごし下さい。
    2017年06月13日 07:34
  • 泥舟

    こんばんは〜

    ちょっと先の夏の漢詩ですね^^
    昔々ですが 月夜の明るい日に宴をしながら
    画をちょっと書いて また酒を飲み
    またちょっと書いて ツマミを食べて
    そんな風に水墨画を描いたそうです
    水墨画は 乾き待ちと言う動作が生じます
    そこで 乾く合間にお酒を飲んだり 景色を楽しんだり
    心豊かに書き上げたのでしょうな
    この漢詩のように 絵と風景と自分が一体となった
    そんな情景が浮かびました
    素敵です^^
    2017年06月14日 03:27
  • 佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

    > 泥舟さん

    こんにちは。温かいコメントをありがとうございます。

    はい。課題を早めに仕上げて検査入院に備えますので、
    結果として季節を先取りしています。

    昔々の水墨画の話も面白いです。
    墨が乾くまでの待機時間ですね。
    その間に多くのことを行なって、
    それが絵の肥やしにもなるのかなと思いました。

    漢詩を思い浮かべた光景と重なってきますので、
    実際に絵を描かれる方の感慨からも
    同じ心境があったのでしたらひと安心です。
    これからも絵画の現場を調べたり眺めたりする時に
    そういう時間をどのように過ごされているかを
    仔細に観察していこうと思いました。

    絵画を描いている風景を漢詩に詠んで、
    それが実際の光景と重なるようでしたら
    ほっとしました。
    景色を見る光景は漢詩の中でも多く詠んでいますので、
    この部分には特にしっかりと力を入れていきます。

    絵を描くのは苦手な私ですので、
    こうして絵を描く漢詩を詠むことは楽しい挑戦でした。
    これからも普段の勉強と共に頑張っていきます。

    良い土曜日の午後をお過ごし下さい。
    2017年06月17日 17:40