漢詩「夏夜偶成(其二)」(七言律詩)

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●原文:

 夏夜偶成(其二)  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

夜 分 郊 外 臥 牀 前  閒 坐 婆 娑 水 竹 邊

翠 幹 熒 熒 螢 火 亂  靑 枝 皎 皎 月 光 圓

忽 淸 雙 耳 江 風 響  永 隔 二 星 雲 漢 天

漸 使 丈 夫 蕭 寂 下  千 竿 固 節 憶 塵 緣


●書き下し文:

 題:「夏夜(かや) 偶成(ぐうせい)」

夜分(やぶん)の郊外(かうぐわい) 臥牀(ぐわしやう)の前(まへ)
閒坐(かんざ)す婆娑(ばさ)たる水竹(すいちく)の邊(へん)

翠幹(すいかん) 熒熒(けいけい) 螢火(けいくわ) 亂(みだ)れ
靑枝(せいし) 皎皎(けうけう) 月光(げつくわう) 圓(まど)かなり

忽(たちま)ち雙耳(さうじ)を淸(きよ)くする江風(かうふう)の響(ひび)き
永(なが)く二星(にせい)を隔(へだ)つ雲漢(うんかん)の天(てん)

漸(やうや)く丈夫(ぢやうふ)をして蕭寂(せうせき)せしむるの下(もと)
千竿(せんかん) 固節(こせつ) 塵緣(ぢんえん)を憶(おも)ふ

「閒」の新字体は「間」、「邊」の新字体は「辺」、「螢」の新字体は「蛍」、「靑」の新字体は「青」、「圓」の新字体は「円」、「雙」の新字体は「双」、「淸」の新字体は「清」、「緣」の新字体は「縁」
「郊(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「外(ぐわい)」の新仮名遣いは「がい」
「臥(ぐわ)」の新仮名遣いは「が」
「牀(しやう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「前(まへ)」の新仮名遣いは「まえ」
「火(くわ)」の新仮名遣いは「か」
「光(くわう)」の新仮名遣いは「こう」
「雙(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「江(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「漸(やうや)く」の新仮名遣いは「漸(ようや)く」
「丈(ぢやう)」の新仮名遣いは「じよう(小書き文字を使うと『じょう』)」
「蕭(せう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「塵(ぢん)」の新仮名遣いは「じん」


●現代語訳:

 題:「夏の夜にふと思いついて出来た漢詩です(その二)」

 夜中の都市に隣接した地域で、床に就いて寝る前に、
 風に翻って舞う水竹(すいちく:竹の一種)の辺りで、のんびりと坐っていました。

 竹の緑の幹の所では、小さい蛍の光が乱れ舞っていて、
 竹の青い枝の所では、白い月の光が丸く輝いていました。

 突然、両耳を清らかにする川の上を吹き渡る風の響きがあって、
 長い間、二つの星(彦星と織り姫星)を隔てる天の川の懸かっている空が見えていました。

 次第に成人した一人前の男を物寂しくさせた後、
 千本もの多くの竹が自分の考えなどを変えない強い気持ちがあることに対し、世間のうるさい関係のことを考えていました。


●語注:

(以下、『新字源』は1994年(平成六年)十一月十日発行の改訂版を引用しています。)

(以下、海外のWebサイトのURLは、リンクを防止するために「:(コロン)」を全角にしています。)

※偶成(ぐうせい):「ふと思いついてできる。また、その作品。」(『新字源』P74)

※夜分(やぶん):「よなか。夜半。」(『新字源』P232)

※郊外(こうがい(かうぐわい)):「都市に隣接した地域。市街地周辺の田園地帯。」(Webサイト『goo国語辞書』)の「郊外」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/71954/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十六日(金)))

※臥牀(がしよう(ぐわしやう))(小書き文字を使うと「がしょう」)(=臥床(がしよう(ぐわしやう))(小書き文字を使うと「がしょう」)):「①ねどこ。ねだい。また、とこについて寝る。②病気で寝る。」(『新字源』P830)、ここでは、①の意味で用いています。

※間坐(閒坐)(かんざ):「のんびりとすわっている。」(『新字源』P1058)

※婆娑(ばさ):「①舞うさま。衣をひるがえして舞うさま。②あちらこちらとうろつくさま。③物事に未練をいだいて立ち去りがたいさま。④安んじて落ち着くさま。⑤琴の調子が変化に富むさま。」(『新字源』P260)、ここでは、①の意味で用いています。

※水竹(すいちく):「竹子的一種(Phyllostachys heteroclada)、有被針形葉子、長在河、湖邊或灌木叢中、可編成竹席、花藍等器物。」(Webサイト『漢典(かんてん)』の「水竹」の検索結果 < http://www.zdic.net/c/4/14a/323514.htm > (アクセス日:平成二十九年六月十六日(金)))、つまり、「竹の一種の“Phyllostachy heteroclada”で、針の形をした葉を開くことがあり、生長して河や湖の畔(ほとり)、或いは群がり生える木や草叢の中にあり、竹の筵(むしろ)や生花を盛った籠(かご)(花藍(huā lán)(『中日辞典』P584))等の器物を編むのに使われます。」という意味です。

※熒熒(けいけい):「①光りかがやくさま。②つやつやしたさま。③小さい光のさま。」(『新字源』P625)、ここでは、③の意味で用いています。

※蛍火(螢火)(けいか(けいくわ)):「ほたるの光。」(『新字源』P885)

※皎皎(きようきよう(けうけう))(小書き文字を使うと「きょうきょう」):「①白いさま。潔白なさま。②明るく光るさま。」(『新字源』P689)、ここでは、①の意味で用いています。

※江風(こうふう(かうふう)):「川風〔かわかぜ(かはかぜ)〕のことです。」

※川風(かわかぜ(かはかぜ)):「川の上を吹き渡る風。川から吹いてくる風。」(Webサイト『goo国語辞書』の「川風」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/46876/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月十六日(金)))

※二星(にせい):「天の川によって分断された二つの星、牽牛(けんぎゅう:彦星)と織女(しょくじょ:織り姫星)。」のことです。

※雲漢(うんかん):「天の川。」(『新字源』P1085)

※丈夫(じようふ(ぢやうふ))(小書き文字を使うと「じょうふ」):「①成人した男子。一人まえの男。周〔しゅう〕の一丈は八尺で、一尺は、今の二二・五センチメートルといわれる。②才能が人よりすぐれている人。③妻が夫をさしていうことば。」(『新字源』P14)、ここでは、①の意味で用いています。

※蕭寂(しようせき(せうせき)):「ものさびしいさま。」(『新字源』P873)

※固節(こせつ):「つよいみさお」(『詩語辞典』P185、河井酔荻編、東京松雲堂書店、昭和五十六年(1981年)十二月二十日発行の初版)、つまり、「自分の考えなどを変えない強い気持ち」のことです。

※塵縁(塵緣)(じんえん(ぢんえん)):「①世間のうるさい関係。②〔仏教用語で〕俗縁。悟りの妨げとなる色・声・香・味・触・法の六塵〔りくじん(りくぢん)〕をいう。」(『新字源』P224)、ここでは、①の意味で用いています。


●解説:

 今回は、夏の夜にふと思いついて出来た七言律詩の漢詩の二首目です。

 今回の七言律詩は、私が所属している漢詩の会の浪速菅廟吟社(なにわかんびょうぎんしゃ)の八月の課題「郊居夜坐(こうきょやざ:郊外(こうがい)に住んでいる人が夜中になって坐る)」という七言絶句をまず作り(一句目・二句目・七句目・八句目)、更に二組の語呂合わせの句である対句(ついく)を作って七言律詩にしたものです(三句目と四句目、五句目と六句目の二組)。

 夜中の郊外で就寝前に、水竹(すいちく)という竹の一種の辺りに坐り、小さな蛍の光と白い月の光を眺め、両耳を清らかにする川風が吹き渡り、彦星と織り姫星を隔てる天の川を眺め、そのような光景は、一人前の男を物寂しくさせて、竹の中に自分の考えなどを変えない強い気持ちを見出して、世間のうるさい関係を考えていた、そのように漢詩を作っていました。

 夏の夜の涼しい光景が上手く描けていれば良いなと思います。竹の中にある自分の考えなどを変えない強い気持ち、そのような気持ちを私も改めてしっかりと持って、これからも普段の勉強と共に漢詩作りを頑張っていきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

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