漢詩「林塘銷夏」(七言律詩)

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●原文:

 林塘銷夏  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

炎 天 夏 日 坐 林 塘  響 樹 晴 風 晝 尚 涼

既 閉 白 蓮 浮 點 點  遙 連 翠 嶂 望 茫 茫

將 描 水 面 頻 揮 筆  欲 上 靑 盤 數 擧 觴

相 伴 酒 人 乘 小 艇  瑤 池 仙 客 送 斜 陽


●書き下し文:

 題:「林塘(りんたう) 銷夏(せうか)」

炎天(えんてん)の夏日(かじつ) 林塘(りんたう)に坐(ざ)し
樹(き)に響(ひび)く晴風(せいふう) 晝(ひる) 尚(なほ) 涼(すず)し

既(すで)に閉(と)づる白蓮(はくれん) 浮(う)かぶこと點點(てんてん)として
遙(はる)かに連(つら)なる翠嶂(すいしやう) 望(のぞ)み茫茫(ばうばう)たり

將(まさ)に水面(すいめん)を描(えが)かんとして頻(しき)りに筆(ふで)を揮(ふる)ひ
靑盤(せいばん)に上(のぼ)らんと欲(ほつ)して數(しばしば) 觴(しやう)を擧(あ)ぐ

酒人(しゆじん)と相(あひ) 伴(ともな)ひて小艇(せうてい)に乘(の)り
瑤池(えうち)の仙客(せんかく) 斜陽(しややう)を送(おく)る

「晴」の新字体は「晴」、「晝」の新字体は「昼」、「點」の新字体は「点」、「遙」の新字体は「遥」、「將」の新字体は「将」、「靑」の新字体は「青」、「數」の新字体は「数」、「擧」の新字体は「挙」、「乘」の新字体は「乗」、「瑤」の新字体は「瑶」
「塘(たう)」の新仮名遣いは「とう」
「銷(せう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「尚(なほ)」の新仮名遣いは「なお」
「閉(と)づる」の新仮名遣いは「閉(と)ずる」
「嶂(しやう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「茫(ばう)」の新仮名遣いは「ぼう」
「揮(ふる)ひ」の新仮名遣いは「揮(ふる)い」
「觴(しやう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「相(あひ)」の新仮名遣いは「あい」
「伴(ともな)ひて」の新仮名遣いは「伴(ともな)いて」
「小(せう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「瑤(えう)」の新仮名遣いは「よう」
「陽(やう)」の新仮名遣いは「よう」


●現代語訳:

 題:「樹木が密生している所にある池の堤防で夏の暑さを凌ぐ様子を漢詩に詠みました」

 暑い夏の空の日に、樹木が密生している所にある池の堤防に坐り、
 晴れた日に吹く風の音が樹木に響いて、昼間は尚も涼しいままでした。

 既に白色の蓮(はす)の花は花が閉じていて、池に点々と浮かんでいて、
 遙か遠くに連なる緑色の連山は、見上げると広々として果てしない様子でした。

 今まさに水面を描こうとして、頻りに筆を振るって、
 蓮(はす)の葉に上ろうと思って、屡々杯を上げて酒を飲んでいました。

 酒飲みの人とお互いに引き連れて小舟に乗り、
 中国の西方にある崑崙山(こんろんさん)という霊山にある、瑶池(ようち)という神話上の女の仙人である西王母(せいおうぼ)が住んでいる池の仙人になったような気分で、夕日を見送っていました。


●語注:

(以下、『新字源』は、1994年(平成六年)十一月十日発行の改訂版を引用しています。)

(以下、海外のWebサイトのURLは、リンクを防止するため、「:(コロン)」を全角にしています。)

※林塘(りんとう(りんたう)):「樹林池塘。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「林塘」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年六月二十五日(日))))、つまり、「樹木が密生している所にある池の堤。」のことです。

※銷夏(しようか(せうか))(小書き文字を使うと「しょうか」)(=消夏(しようか(せうか))(小書き文字を使うと「しょうか」)):「夏の暑さをしのぐ。」(『新字源』P578)

※池塘(ちとう(ちたう)):「池の堤。」(『新字源』P559)

※樹林(じゆりん)(小書き文字を使うと「じゅりん」):「植物群系の一。木本植物が密に生えている群落。高木林・低木林に分けられる。高木層・低木層・草木層・コケ層など、多層構造をなす。熱帯降雨林・照葉樹林・針葉樹林など。」(Webサイト『goo国語辞書』の「樹林」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/106422/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月二十五日(日)))、また「樹木が密生している所。」(Webサイト『goo類語辞書』の「樹林」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/thsrs/13612/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月二十五日(日)))

※炎天(えんてん):「①暑い夏の空。②夏の厚い日なた。③南方の空。」(『新字源』P617)、ここでは、①の意味で用いています。

※晴風(晴風):「晴れた日の風。」のことです。

※白蓮(はくれん):「1 白色のハスの花。びゃくれん。2 ハクモクレンの別名。」(Webサイト『goo国語辞書』の「白蓮」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/173524/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月二十七日(火)))、ここでは、1の意味で用いています。

※翠嶂(すいしよう(すいしやう))(小書き文字を使うと「すいしょう」):「みどり色の連山。」(『新字源』P803)

※茫茫(ぼうぼう(ばうばう)):「①ぼうっとしてはっきりしないさま。②ひろびろとして果てしないさま。③つかれたさま。④さかんなさま。」(『新字源』P854)、ここでは、②の意味で用いています。

※青盤(靑盤)(せいばん):「(1)靑瓷盤盤。(2)喩指荷葉。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「靑盤」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年六月二十七日(火))))、つまり、「(1)青瓷(せいし:薄い緑色の釉薬(うわぐすり)をかけた磁器)の大きいもの。(2)蓮(はす)の葉を喩えて指しています。」という意味です。ここでは、(2)の意味で用いています。

※青瓷(靑瓷)(せいし)(=青磁(靑磁)(せいじ)):「うすい緑色の釉薬〔うわぐすり〕をかけた磁器。」(『新字源』P1090)

※盤盤(ばんばん):「(1)曲折囘繞貌。(2)寬廣貌;巨大貌。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「盤盤」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年六月二十七日(火))))、つまり、「(1)曲がりくねったさま。(2)広く大きいさま。巨大なさま。」を意味します。ここでは、(2)の意味で用いています。

※寛広(寬廣)(かんこう(くわんくわう)):「面積或範圍廣大。」(Webサイト『漢典(かんてん)』の「寬廣」の検索結果 < http://www.zdic.net/c/d/108/282691.htm > (アクセス日:平成二十九年六月二十七日(火)))、つまり、「面積或いは範囲が広く大きいこと。」を意味しています。

※広大(廣大)(こうだい(くわうだい)):「広く大きいこと。また、そのさま。」(Webサイト『goo国語辞書』の「広大」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/74044/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月二十七日(火)))

※觴(しよう(しやう))(小書き文字を使うと「しょう」)「①さかずきをさす。酒をすすめる。②さかずき(さかづき)。酒杯の総称。③『濫觴〔らんしよう(らんしやう)〕〔小書き文字を使うと『らんしょう』〕』は、どのような大河も、水源はやっとさかずきをうかべられる程度であるという意から、事の初めをいう。」(『新字源』P919)、ここでは、②の意味で用いています。

※酒人(しゆじん)(小書き文字を使うと「しゅじん」):「①酒造りの役人。②酒ずきな人。のみすけ。」(『新字源』P1025)、ここでは、②の意味で用いています。

※小艇(しようてい(せうてい)):「小さい船。こぶね。」(Webサイト『goo国語辞書』の「小艇」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/107414/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年六月二十七日(火)))

※瑶池(瑤池)(ようち(えうち)):「①崑崙〔こんろん〕山にある池の名。西王母〔せいおうぼ(せいわうぼ)〕が住んでいるという。②仙人のいる世界。」(『新字源』P660)、ここでは、①の意味で用いています。

※崑崙(こんろん):「①むかし、中国の西方にあると考えられた霊山。西王母〔せいおうぼ(せいわうぼ)〕という仙女〔せんによ〕〔小書き文字を使うと『せんにょ』〕が住み、また美玉を産したという。崑丘〔こんきゆう(こんきう)〕〔小書き文字を使うと『こんきゅう』〕。崑岡〔こんこう(こんかう)〕②山脈の名。チベットと新疆〔しんきよう(しんきやう)〕〔小書き文字を使うと『しんきょう』〕ウイグル自治区との境を東西に走る大山系。③唐・宋〔そう〕代、マラヤ、インドネシア方面の人種。これをどれいにしたのを崑崙奴〔こんろんど〕という。」(『新字源』P305)、ここでは、①の意味で用いています。

※西王母(せいおうぼ(せいわうぼ)):「神話上の女の仙人〔せんにん〕。西の果ての崑崙〔こんろん〕山に住み、不死の薬をもっていたといわれる。」(『新字源』P911)

※仙客(せんかく):「①仙人。②鶴〔つる〕の別名。③ほととぎすの別名。」(『新字源』P45)、ここでは、①の意味で用いています。

※斜陽(しやよう(しややう))(小書き文字を使うと「しゃよう」):「西にかたむいた日。夕日。」(『新字源』P449)


●解説:

 今回は、樹木が密生している所にある池の堤防で夏の暑さを凌ぐ様子を、七言律詩の漢詩にしました。

 今回の七言律詩は、私が所属している漢詩の会の課題詩の一つ、七言絶句の「林塘銷夏(りんとうしょうか)」をまず作り(一句目・二句目・七句目・八句目)、更に二組の語呂合わせの句である対句(ついく)(三句目と四句目、五句目と六句目の二組)を作って繋ぎ合わせて七言律詩にしたものです。

 暑い夏の日の空に、樹木が密生している所にある池の堤防に坐り、晴れた日に吹く風の音が樹木に響いて、昼間も涼しいままであり、白い蓮の花は既に花が閉じていて池に点々と浮かび、遠くに連なる緑色の連山は、見上げると広々として果てしない様子であり、水面を描こうと頻りに筆を執り、蓮の葉に上ろうと思って酒を飲んでいて、酒飲みの人を引き連れて小舟に乗り、崑崙山(こんろんさん)という霊山にある池の仙人になったような気分になって夕日を見送る、というような光景を思い浮かべて漢詩を作っていました。

 涼しさを得るためにこのような場所に行くのも良いなと思いながら、風景を思い浮かべて漢詩を作るのもとても楽しいものです。漢詩作りの中で七転八倒するのも楽しいです。これからも普段の勉強を含めて漢詩作りや填詞(てんし)作りを頑張っていきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント

  • 美舟

    いつもながら素晴らしいお作品でございますね。
    情景が目に浮かぶようです。
    本当にそのようなところへ行き、お酒を少し飲みながら、筆を嗜む。
    素敵だな〜って思いました。
    情緒あふれるお作品。
    お見事でございます!
    2017年07月08日 02:14
  • 佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

    > 美舟さん

    こんにちは。温かいコメントをありがとうございます。

    はい。筆を執って池の水面を描いたり、
    お酒を飲んで池に小舟を浮かべてみんなで乗った時に、
    気持ちが大きくなって伝説の女仙人のいる仙境の池にいる気分で
    夕日を見送ったりと、そんな風に漢詩を作っていました。

    こうして漢詩を詠んでいく中で、暑さを避ける方法も
    様々あるということを思い浮かべていました。
    皆と楽しいお酒を飲み、そんな気分の中で熱さも吹き飛ぶ、
    そんな暑さの忘れ方も素敵だなと改めて思います。

    これからもいろいろな場面を漢詩や填詞に詠んで、
    体調を整えながら頑張っていきます。

    良い水曜日の午後をお過ごし下さい。
    2017年07月12日 16:16