漢詩「夏日間居」(五言排律)

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●原文:

 夏日閒居  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

幽 巷 閒 居 裏  空 庭 水 石 聲

洗 塵 長 夏 去  過 雨 午 山 晴

欲 忘 三 旬 暑  茲 看 一 望 平

廬 庵 懷 玉 洞  書 卷 憶 詩 盟

吹 起 聽 風 信  沈 吟 斟 酒 觥

壯 年 羞 易 老  斜 照 早 涼 生


●書き下し文:

 題:「夏日(かじつ) 閒居(かんきよ)」

幽巷(いうかう) 閒居(かんきよ)の裏(うち)
空庭(くうてい) 水石(すいせき)の聲(こゑ)

塵(ちり)を洗(あら)ひて長夏(ちやうか) 去(さ)り
雨(あめ)を過(す)ぎて午山(ござん) 晴(は)る

三旬(さんじゆん)の暑(あつ)きを忘(わす)れんと欲(ほつ)して
茲(ここ)に一望(いちばう)の平(たひ)らかなるを看(み)る

廬庵(ろあん) 玉洞(ぎよくどう)を懷(おも)ひ
書卷(しよくわん) 詩盟(しめい)を憶(おも)ふ

吹(ふ)き起(お)こる風信(ふうしん)を聽(き)き
沈吟(ちんぎん)して酒觥(しゆくわう)を斟(く)む

壯年(さうねん) 老(お)い易(やす)きを羞(は)ぢ
斜照(しやせう) 早涼(さうりやう) 生(しやう)ず

「閒」の新字体は「間」、「聲」の新字体は「声」、「晴」の新字体は「晴」、「懷」の新字体は「懐」、「黃」の新字体は「黄」、「卷」の新字体は「巻」、「聽」の新字体は「聴」、「壯」の新字体は「壮」
「幽(いう)」の新仮名遣いは「ゆう」
「巷(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「聲(こゑ)」の新仮名遣いは「こえ」
「洗(あら)ひて」の新仮名遣いは「洗(あら)いて」
「長(ちやう)」の新仮名遣いは「ちよう(小書き文字を使うと『ちょう』)」
「望(ばう)」の新仮名遣いは「ぼう」
「平(たひ)らか」の新仮名遣いは「平(たい)らか」
「屋(をく)」の新仮名遣いは「おく」
「懷(おも)ひ」の新仮名遣いは「懷(おも)い」
「卷(くわん)」の新仮名遣いは「かん」
「憶(おも)ふ」の新仮名遣いは「憶(おも)う」
「觥(くわう)」の新仮名遣いは「こう」
「壯(さう)」の新仮名遣いは「壯(そう)」
「羞(は)ぢ」の新仮名遣いは「羞(は)じ」
「照(せう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「早(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「涼(りやう)」の新仮名遣いは「りよう(小書き文字を使うと『りょう』)」


●現代語訳:

 題:「夏の日に人を避けて一人でいる様子を漢詩に詠みました」

 人里離れた所に、人を避けて一人でいる中で、
 人のいない庭に、泉の水と庭の石の音がしていました。

 塵を洗い流して、夏の長い日を去るようであり、
 雨が過ぎていって、昼間の山は晴れていました。

 三十日間の暑さを忘れようと思って、
 ここに一目で見渡した景色は、安らかで落ち着いているのを見るのでした。

 庵(いおり:仮小屋)に、道家の術を修めて仙人になる道を得た人や隠者の住む所を思い、
 書物に詩人同士の交わりを思うのでした。

 吹き起こる、季節に応じて吹く風の音を聴き、
 思いに耽って詩歌を口ずさんで、酒の杯を酌んでいました。

 働き盛りの年頃は老いやすいのを恥ずかしく思って、
 夕日が出る頃には、早く訪れた涼しさが起こっていました。


●語注:

(以下、『新字源』は1994年(平成六年)十一月十日発行の初版を引用しています。)

(以下、海外のWebページのURLは、リンクを防止するために、「:(コロン)」を全角にしています。)

※間居(閒居)(かんきよ)(小書き文字を使うと「かんきょ」):「①仕事がなく暇でいる。人を避けてひとりでいる。②静かなすまい。幽棲〔ゆうせい(いうせい)〕」(『新字源』P1058)、ここでは、①の意味で用いています。

※幽巷(ゆうこう(いうかう)):「奥深い小路。また、人里はなれた所。」(『新字源』P125)

※空庭(くうてい):「人のいない〔にわ〕」(河井酔荻編、『詩語辞典(しごじてん)』、P229、東京松雲堂書店、昭和五十六年(1981年)十二月二十日発行の初版)

※水石(すいせき):「1 水と石。泉水と庭石。また、水中にある石。2 室内で台座に於いて眺める観賞用の自然石。」(Webサイト『goo国語辞書』の「水石」の検索結果 < https://dictionary.go.ne.jp/jn/116536/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月)))、ここでは、1の意味で用いています。

※長夏(ちようか(ちやうか))(小書き文字を使うと「ちょうか」):「①六月のこと。②夏の長い日。」(『新字源』P1053)、ここでは、②の意味で用いています。

※午山(ござん):「昼間の山。」のことです。

※三旬(さんじゆん)(小書き文字を使うと「じゅん」):「旬(じゆん)(小書き文字を使うと『じゅん』)」は「十日」を示し、「三旬」は「三十日」のことです。

※一望(いちぼう)(いちばう):「広い景色などを一日で見渡すこと。一眸(いちぼう)。」(Webサイト『goo国語辞書』の「一望」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/12781/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月)))

※廬庵(ろあん):「いおり。かりごや。家。」(『新字源』P333)

※玉洞(ぎよくどう)(小書き文字を使うと「ぎょくどう」):「(1)岩洞的美稱。亦指仙道或隱者的住所。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「玉洞」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月))))、つまり、「(1)山の上にある洞穴(ほらあな)を褒めて言う言葉。又は道家の術を学習して仙人となる道を得た人や、或いは隠者の住んでいる所を指す。(2)奥深い所にある部屋を褒めて言う言葉。(3)道教の言葉で、鼻の穴を指す。」という意味です。ここでは、(1)の意味で用いています。

※岩洞(がんどう):「山洞。」(Webサイト『漢典(かんてん)』の「岩洞」の検索結果 < http://www.zdic.net/c/9/108/284855.htm > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月)))、つまり、「山の上にある洞穴(ほらあな)。」のことです。

※山洞(さんどう):「山上的洞穴。」(Webサイト『漢典(かんてん)』の「山洞」の検索結果 < http://www.zdic.net/c/1/13f/308820.htm > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月)))、つまり、「山の上にある洞穴(ほらあな)。」のことです。

※美称(美稱)(びしよう)(小書き文字を使うと「びしょう」):「①ほめていう言い方。②よい評判。」(『新字源』P798)、ここでは、①の意味で用いています。

※仙道(せんどう(せんだう)):「(1)謂成仙之道。(2)指修仙得道者。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「仙道」の検索結果 < http://sou-yun.com/QureryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月))))、つまり、「(1)仙人となるための道を言う。(2)道家の術を学習して、道を得た(仙人になる道を得た)人。」を意味しています。ここでは、(2)の意味で用いています。

※修仙(しゆうせん(しうせん))(小書き文字を使うと「しゅうせん」):「修煉成仙。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「修仙」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月))))、つまり、「道家の術を修めて仙人になること。」という意味です。

※修煉(しゆうれん(しうれん)):「修習道家煉丹、煉氣之術。」(Webサイト『漢典(かんてん)』の「修煉」の検索結果 < http://www/zdic.net/c/e/3e/95901.htm > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月)))、つまり、道家の煉丹(れんたん:不老不死の薬を作る)や、煉気(れんき:深呼吸をして長生きして老いないようになる方法を求める)などの術を学習すること。」です。

※煉丹(れんたん):「道家の術の一つ。辰砂〔しんしや(小書き文字を使うと『しんしゃ』)〕・水銀などに熱を加えて変化させ、それを薬品にすること。転じて不老不死の薬を作ること。いずれもくわしいことはわからない。」(『新字源』P625)

※煉気(煉氣)(れんき)(=錬気(鍊氣)(れんき)):「修道人修鍊吐納、以求長生不老的方法。」(Webサイト『漢典(かんてん)』)の「煉氣」の検索結果 < http://www.zdic.net/c/c/e1/223580.htm > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月)))、つまり、「道を修める人が、吐納(とのう(となう):口から腹中の古い気を吐き出し、鼻から新鮮な気を吸い入れるという深呼吸)を鍛錬修養して、それによって長生きして老いないようにする方法を求めること。」を意味しています。

※吐納(とのう(となう)):「①道家の健康法の一つで、口から腹中の古い気をはき出し、鼻から新鮮な気をすい入れる。今の深呼吸。②出すと、入れると。」(『新字源』P167)

※洞房(どうぼう(どうばう)):「①奥深い所にあるへや。奥のへや。②婦人のへや。③新婚のへや。」(『新字源』P576)、ここでは、①の意味で用いています。

※書巻(書卷)(しよかん(しよくわん))(小書き文字を使うと「しょかん」):「書物」のことです。

※詩盟(しめい):「詩人同士の交わり。また、詩友。」(『三省堂 大辞林』(Webサイト『Weblio辞書』の「詩盟」の検索結果 < http://www.weblio.jp/content/%E8%A9%A9%E7%9B%9F > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月))))

※風信(ふうしん):「風が季節に応じてふくこと。」(『新字源』P1110)

※沈吟(ちんぎん):「①思いにふけって口ずさむ。②思いをひそめ、じゅうぶん検討する。」(『新字源』P562)、ここでは、①の意味で用いています。

※酒觥(しゆこう(しゆくわう))(小書き文字を使うと「しゅこう」):「猶酒杯。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「酒觥」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月))))、つまり、「ちょうど酒の杯のようなものです。」という意味です。

※壮年(壯年):「働きざかりの年ごろ。三十歳ごろ。」(『新字源』P228)

※斜照(しやしよう(しやせう))(小書き文字を使うと「しゃしょう」):「(1)光線從側面照射。(2)斜陽。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「斜照」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年七月三日(月))))、つまり「(1)光線を側面より当てること。(2)夕日。」という意味です。ここでは、(2)の意味で用いています。

※斜陽(しやよう(しややう))(小書き文字を使うと「しゃよう」):「西に傾いた日。夕日。」(『新字源』P449)

※早涼(そうりよう(さうりやう))(小書き文字を使うと「そうりょう」):「早くおとずれたすずしさ。初秋のすずしさ。」(『新字源』P460)


●解説:

 今回は、夏の日に人を避けて一人でいる様子を、五言排律の漢詩にしました。

 人里離れた所に、人を避けて一人でいる中で、庭の泉の水と庭の石の音を聴き、雨が過ぎて落ち着いた景色の中で、暑さを忘れようと思い、庵(いおり:仮小屋)に、道家の術を修めて仙人になる道を得た人や隠者のいる所を思い、書物に詩人同士の交わりを思い、季節に応じて吹く風の音を聴き、思いに耽って詩歌を口ずさんで、酒の杯を酌み、働き盛りの年頃が老いやすいのを恥ずかしく思っている中で、夕日が出る頃には、早く訪れた涼しさが起こっていた、そんな風景と心境を思い浮かべながら、漢詩を作っていました。

 最近の十代の将棋のプロ棋士の方の活躍などを見ると、四十代ではまだまだ老いた気持ちを持ってはいけないという気持ちになりました。これからもしっかりと体調を整えながら頑張っていきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント

  • 泥舟

    こんばんはです

    彗星の如く現れた天才棋士の話で 話題が持ちきりですね
    本当に才能がある人っていう人は ああいう人をいうのかなって思います
    でも共通して言えることは その特技を楽しんでいるっていうことだと思います
    fuko先生然り 玄齋様然り 漢詩を愉しまれておられる方は
    やはり素晴らしい結果を出されていると思います
    私は漢詩より絵の方が楽しい と思っているので
    絵の方がやはり上達していますねえ〜
    そのぶん 漢詩がおろそかに〜
    わはは。いけないんですけどね。

    お互い暑い夏を乗り切って マイペースで頑張りましょう!
    2017年07月07日 03:14
  • 佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

    > 泥舟さん

    こんにちは。温かいコメントをありがとうございます。

    はい。その天才棋士の方も、
    誰よりも将棋にのめり込んでいったことが、
    大きな成果に繫がったのだと思っています。

    泥舟さんは絵に注力されているのですね。
    浪速菅廟吟社にもいろんな経歴を持った方が
    それぞれ漢詩を作っておられますので、
    毎月の詩集にはどきどきします。とても勉強になります。
    泥舟さんの漢詩もその一つです。
    どんな情景を切り取って課題詩を仕上げるか、という所が、
    毎月の思案のしどころですね。
    これからもしっかりと頑張っていきます。

    はい。私も体調に気を付けながら、
    マイペースで努力を重ねていきます。

    良い金曜日の午後をお過ごし下さい。
    2017年07月07日 15:08
  • 美舟

    こちらの詩を拝見していて、ふと思いました。
    40代も頑張らなきゃと!(笑)
    いつか玄齋様と色々なお話したいな〜なんても思いました。
    詩友の皆様で、静かなところで、楽しく語り合いたいな〜なんて!
    一人の時間を楽しむのが好きな私。
    静かに一人の時間を・・・
    でも、40代はまだまだ!
    なんだか、頑張らねばなと思い、そして、皆様とお会いして!
    少し詩の内容からは逸れましたが、そういうの本当にいいな〜って、
    今、一人で七夕の静かな空を見ながら、思いました!
    2017年07月08日 02:23
  • 佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

    > 美舟さん

    こんにちは。温かいコメントをありがとうございます。

    はい。少年棋士の活躍なども見ていますと、
    40代も頑張らなきゃと思います。
    老いるのは早いなと我ながら思います。
    新たな気持ちで頑張っていきます。

    はい。美舟さんや詩友の皆様とお会いする機会が
    出来れば良いなと思います。
    独りで勉強や作業をするのが普段の生活ですので、
    時には皆で語り合うのも、普段の生活のやる気を出す上で
    大切なひと時になるだろうなと思います。
    そういう機会を作ることが出来れば、
    お会い出来れば良いなと思います。
    今は健康に留意して過ごしていきます。

    七夕は大阪でも何とか晴れて良かったです。
    月のまぶしさに、星々が見えない程でした。
    夜に星を眺めるのも良いですね。

    これからもしっかりと頑張っていきます。
    良い水曜日の午後をお過ごし下さい。
    2017年07月12日 16:26