填詞「偶成(倣水龍吟)」

19_偶成_水龍吟_2017_07_30.png


●原文:

 偶成(倣水龍吟)  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

萬人天稟皆存,同心天性人人異。如斯樂也,如斯苦也,相爭何事。殺人人言,彼呼不幸,彼爲人纍。故實施殺害,大量死者,驚凶行,流雙涙。

  ●

障害罪哉尤也,續悲傷、匿名遺族。人生多樣,意思多彩,恥如盲目。日日承知,職員勞苦,多勞微祿。卽存身障害,常同感謝,後來萎縮。


●書き下し文:

 題:「偶成(ぐうせい)(水龍吟(すいりゆうぎん)に倣(なら)ふ)」

萬人(ばんじん) 天稟(てんぴん) 皆(みな) 存(そん)し,
心(こころ)を同(おな)じくして天性(てんせい) 人人(ひとびと) 異(こと)なる。

斯(か)くの如(ごと)きは樂(たの)しきや,
斯(か)くの如(ごと)きは苦(くる)しきや,
相(あひ) 爭(あらそ)ふは何事(なにごと)ぞ。

人(ひと)を殺(ころ)しし人(ひと)の言(い)ふらく,
彼(かれ) 不幸(ふかう)を呼(よ)び,
彼(かれ) 人(ひと)の纍(わづら)ひと爲(な)ると。

故(ゆゑ)に殺害(さつがい)を實施(じつし)し,
大量(たいりやう)の死者(ししや),
凶行(きようかう)に驚(おどろ)き,
雙涙(さうるい)を流(なが)す。

 ●

障害(しやうがい)は罪(つみ)なるや尤(とが)なるや,
悲傷(ひしやう)を續(つづ)ける、
匿名(とくめい)の遺族(ゐぞく)。

人生(じんせい) 多樣(たやう)にして,
意思(いし) 多彩(たさい),
盲目(まうもく)の如(ごと)くなるを恥(は)づ。

日日(ひび) 承知(しようち)す,
職員(しよくゐん)の勞苦(らうく)を,
勞(らう) 多(おほ)くして微祿(びろく)なるを。

卽(も)し身(み)に障害(しやうがい)を存(そん)すれば,
常(つね)に感謝(かんしや)と同(とも)に,
後來(こうらい) 萎縮(ゐしゆく)せん。

「萬」の新字体は「万」、「樂」の新字体は「楽」、「爭」の新字体は「争」、「纍」の新字体は「累」、「爲」の新字体は「為」、「實」の新字体は「実」、「雙」の新字体は「双」、「續」の新字体は「続」、「樣」の新字体は「様」、「祿」の新字体は「禄」、「卽」の新字体は「即」、「來」の新字体は「来」
「倣(なら)ふ」の新仮名遣いは「倣(なら)う」
「相(あひ)」の新仮名遣いは「あい」
「爭(あらそ)ふ」の新仮名遣いは「爭(あらそ)う」
「言(い)ふ」の新仮名遣いは「言(い)う」
「幸(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「纍(わづら)ひ」の新仮名遣いは「纍(わずら)い」
「故(ゆゑ)」の新仮名遣いは「ゆえ」
「量(りやう)」の新仮名遣いは「りよう(小書き文字を使うと『りょう』)」
「行(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「雙(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「障(しやう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「傷(しやう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「遺(ゐ)」の新仮名遣いは「い」
「樣(やう)」の新仮名遣いは「よう」
「盲(まう)」の新仮名遣いは「もう」
「恥(は)づ」の新仮名遣いは「恥(は)ず」
「員(ゐん)」の新仮名遣いは「いん」
「勞(らう)」の新仮名遣いは「ろう」
「多(おほ)く」の新仮名遣いは「多(おお)く」
「萎(ゐ)」の新仮名遣いは「い」


●現代語訳:

 題:「ふと思いついたことを、宮廷歌謡の替え歌の填詞(てんし)の一つ、水龍吟(すいりゅうぎん)に基づいて詠みました」

 全ての人は皆、天が人に与えた性質・才能があり、
 考えは同じであって、生まれつきの性質は、人々は異なっています。

 このようであるのは、楽しいものです。
 このようであるのは、苦しいものです。
 お互いに争うとは、何事なのでしょう。

 人を殺した人の言うことには、
 「彼は不幸を呼び、
 彼は人の迷惑になるのです。」とのことです。

 ですからその人は人殺しを実施し、
 大量の死者が出て、
 私は人を殺傷するという悪い行為に驚き、
 両目から涙を流していました。

  ●

 障害は罪なのでしょうか、過ちなのでしょうか。
 悲しみ続ける、
 匿名の遺族の姿がありました。

 その人達の人生は多様であって、
 考えはいろいろな変化があって、種類が多く、
 私は目が見えていない人のように、このことが見えていなかったことを恥ずかしく思っていました。

 日々、知っているのは、
 職員の方々が骨折り苦労していることで、
 骨折り苦労が多いのに、俸給が僅かであるということです。

 もし自分の身に障害があるならば、
 常に感謝をすると同時に、
 その時から後は、元気が無くなってしまうでしょう。

 (一人の障害者としての、私の感想です。)


●語注:

(以下、『新字源』は、1994年(平成六年)十一月十日発行の改訂版を引用しています。)

※偶成(ぐうせい):「ふと思いついてできる。また、その作品。」(『新字源』P74)

※万人(萬人)(ばんじん):「すべての人。ばんにん。」(Webサイト『goo国語辞書』の「万人」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/181397/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年七月二十九日(土)))

※天稟(てんぴん)(=天賦(てんぷ)):「生まれつき。天が人に与えた性質・才能」(『新字源』P243)

※天性(てんせい)(=天素(てんそ)):「生まれつきの性質。」(『新字源』P242)

※凶行(きようこう(きようかう))(小書き文字を使うと「きょうこう」):「人を殺傷するような悪い行為。」(『新字源』P108)

※悲傷(ひしよう(ひしやう))(小書き文字を使うと「ひしょう」):「かなしむ。心がいたむ。悲しみいたむ。」(『新字源』P377)

※意思(いし):「①かんがえ。こころ。こころざし。②㋐意味。㋑おもむき。」(『新字源』P379)、ここでは、①の意味で用いています。

※多彩(たさい):「①いろどりが多くて美しい。②いろいろと変化があって、種類が多い。」(『新字源』P231)、ここでは、②の意味で用いています。

※承知(しようち)(小書き文字を使うと「しょうち」):「承り知る。知っている。②知遇を受ける。」(『新字源』P403)、ここでは、①の意味で用いています。

※労苦(勞苦)(ろうく(らうく)):「①ほねおりをする。②ご苦労でしたとねぎらう。」(『新字源』P126)、ここでは、①の意味で用いています。

※微禄(微祿)(びろく):「わずかばかりの俸給。」(『新字源』P355)

※後来(後來)(こうらい):「①今からのち。将来。②あとから来る。」(『新字源』P349)、ここでは、①の意味で用いています。

※萎縮(いしゆく(ゐしゆく)):「なえちぢむ。おとろえる。元気がなくなる。」(『新字源』P857)


●解説:

 今回は一年前に起きた障害者施設での大量殺傷事件についての感想を、宮廷歌謡の替え歌である填詞(てんし)の一つ、水龍吟(すいりゅうぎん)で詠みました。

 その障害者が大量に殺傷された事件の被告人の持つ考えは、「障害者は不幸を作るだけ」というものでした。私も障害者として生まれ育ってきて、そんな中で周囲に出来る限り負担が多くならないようにと配慮しながら生きてきました。そんな私の努力も無駄になってしまうのではと思うような事件でした。障害者は不幸を作るだけの存在でしょうか。私自身が障害者であることから、障害者の知り合いはいます。障害者といっても様々いて、身体障害のある方は比較的に手や足を動かせる人は前向きであり、そうでない人も必死で生きています。被告人の批判は主に知的障害者に向けられているのだと思いますが、殺された障害者の人達の遺族の方々の発言を聞く中で、役に立たなくても、どこかで周囲の人の心の支えになっていることに思い至りました。それで被告人の言っていることはそれほど当たっていないと思っています。何より今でも生死の境をさまよっている人やその周囲に対してあまりに失礼ではないかと、そう思います。

 そんな事件から一年が経ち、被告人の考えに共感する人も少なからずいることが分かってきました。私も障害者の外見に一瞬驚くことはあっても、話をしてみると比較的に普通の方々と変わらないものだということを理解してきて、そんな意識も次第に変化してきました。障害者への温かい視点、そんな中で屈折した思いをいだいている人が少なからずいるということが分かってきて、複雑な気持ちになりました。

 そんな屈折した思いを持った人達に対し、一人一人に説いて回ることが出来る程にきちんと自分の思いを伝えられるわけではない私としては、少し消極的な気持ちになってしまうのではと心配し、これではいけないと思って頑張っていこうと思います。職員の方々の日々の尽力にきちんと感謝しながらも、消極的にならずに努力を重ねていきます。

 来月からは検査入院です。しっかりと体調を整えて入院に備え、きちんと療養をしていきます。退院する頃にはもっと元気になって過ごしていければ良いなと思います。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント

  • 泥舟

    ヤマユリ園殺傷事件のことでしょうか。
    自分が正しいと言う考えのもとに殺傷をしているのですから
    矯正や指導の方法がありません
    しかし 事前予防ができたのかと言われても 罪を犯す前の人を捕まえる法律はありませんし 物理的にも難しいでしょう
    ドアロックや用心にも限界がありますしね。
    日本は安全な国 と言う言葉は近年の日本に薄れているように思います
    命の重みに 差別などありません
    みんな 生まれたことに感謝するべきなのです
    殺人と自殺がこの世で一番重い罪だと聞いたことがあります
    どのような形であっても 命を粗末にしたり 相手を傷つけたりするようなことは 人として間違ってると思います
    2017年08月02日 23:34
  • 佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

    > 泥舟さん

    こんにちは。温かいコメントをありがとうございます。

    殺人を犯した人物が素直に自分の心境を語っているのか、
    ということも思うことがあります。
    過酷な労働の中で暴発してこのような事件を起こしてしまい、
    殺した人数からも死刑の可能性が高い中、
    開き直って変な理屈を付けて自身の正当化を始めたのではないか、
    そのようにも考えています。
    殺人を犯した人はもっと素直に語るべきではないのかと
    よく思います。

    命の重みに差別など無い、私もそう思います。
    いろんな個性を供えている人たちが
    お互いを思いやって生きる、
    そんな世の中になって欲しいなと思います。

    国内を安全にするには、一人一人が幸福を感じられる
    世の中になることが大切ではないかと考えます。
    幸福であれば、自然に人を思いやる心も生じるのではないか、
    そんな風に考えています。
    大きな理想かもしれませんが、
    こういう風に考えていくことで、
    どんな人も捨て去ることの無い社会、
    それが生まれていくと良いなと思います。

    こうして漢詩や填詞を作る中で、
    世の中のことも深く考えていければ良いなと思います。
    泥舟さんや一人一人の方が考えられていることも、
    とてもためになります。みんな哲学者なのですね。
    私もしっかりと頑張っていきます。

    良い木曜日の午後をお過ごし下さい。
    2017年08月10日 13:10