漢詩「秋雨憶郷」(七言律詩)

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●原文:

 秋雨憶鄕  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

日 東 隨 處 雨 成 霖  客 路 遠 懷 鄕 里 心

貧 士 窮 通 胸 裏 案  故 人 安 否 夢 中 尋

覺 眠 檐 滴 身 材 冷  沾 朶 柴 垣 夜 色 深

返 信 未 來 秋 節 候  追 思 往 事 只 孤 斟


●書き下し文:

 題:「秋雨(しうう) 鄕(きやう)を憶(おも)ふ」

日東(につとう) 隨處(ずいしよ)に雨(あめ) 霖(りん)を成(な)し
客路(かくろ) 遠(とほ)く鄕里(きやうり)を懷(おも)ふ心(こころ)

貧士(ひんし)の窮通(きゆうつう) 胸裏(きようり)に案(あん)じ
故人(こじん)の安否(あんぴ) 夢中(むちゆう)に尋(たづ)ぬ

眠(ねむ)りを覺(さ)ます檐滴(えんてき) 身材(しんざい) 冷(ひ)ややかに
朶(えだ)を沾(ぬ)らす柴垣(さいゑん) 夜色(やしよく) 深(ふか)し

返信(へんしん) 未(いま)だ來(きた)らざる秋節(しうせつ)の候(こう)
往事(わうじ)を追思(ついし)して只(ただ) 孤斟(こしん)するのみ

「隨」の新字体は「随」、「處」の新字体は「処」、「鄕」の新字体は「郷」、「懷」の新字体は「懐」、「覺」の新字体は「覚」、「來」の新字体は「来」
「秋(しう)」の新仮名遣いは「しゆう(小書き文字を使うと『しゅう』)」
「鄕(きやう)」の新仮名遣いは「きよう(小書き文字を使うと『きょう』)」
「懷(おも)ふ」の新仮名遣いは「懷(おも)う」
「尋(たづ)ぬ」の新仮名遣いは「尋(たず)ぬ」
「垣(ゑん)」の新仮名遣いは「えん」
「往(わう)」の新仮名遣いは「おう」


●現代語訳:

 題:「秋の雨の中、故郷を思いやる様子を漢詩に詠みました」

 日本は到る所で雨が長雨となり、
 旅路で遠く故郷のことを思う気持ちがありました。

 生活の苦しい人の行き詰まりと都合良くいくこととを胸の内で考え、
 昔馴染みの人の安否を夢の中で尋ねていました。

 軒の雨垂れに眠りを覚まして、身体は寒くなり、
 柴で編んだ垣根の枝が濡れて夜の景色は深まっていました。

 返信は未だ来ることの無い、秋の季節の折に、
 過ぎ去った事柄を思い返して、唯一人で酒を酌むだけでした。


●語注:

(以下、『新字源』は1994年(平成六年)十一月十日の改訂版を引用しています。)

(以下、海外のWebサイトのURLは、リンクを防止するために「:(コロン)」を全角にしています。)

※日東(につとう):「日本の別名。」(『新字源』P459)

※随処(隨處)(ずいしよ)(小書き文字を使うと「ずいしょ」):「いたるところ、どこにも。」(『新字源』P1007)

※霖(りん):「長雨(ながあめ)。」のことです。

※客路(かくろ):「たびじ。」(『新字源』P276)

※貧士(ひんし):「窮人。」(Webサイト『漢典(かんてん)』の「貧士」の検索結果 < http://www.zdic.net/c/b/1b/40800.htm > (アクセス日:平成二十九年八月十一日(金)))、つまり、「生活の苦しい人。」のことです。

※窮人(きゆうじん):「生活の苦しい人。」(『新字源』P743)

※窮通(きゆうつう)(=窮達(きゆうたつ)):「行きづまると、つごうよくゆくこと。困窮と栄達。」(『新字源』P743)

※故人(こじん):「①むかしなじみの人。②もとの夫や妻。③むかしの友人・門人・部下に対する自称。」(『新字源』P438)、ここでは、①の意味で用いています。
※檐滴(えんてき)(=檐溜(えんりゆう(えんりう))(小書き文字を使うと「えんりゅう」)):「のきの雨だれ。」(『新字源』P527)

※身材(しんざい):「①からだ。②身に備わっている才能。」(『新字源』P978)、ここでは、①の意味で用いています。

※柴垣(さいえん(さいゑん)):「柴垣(しばがき)。」つまり、「柴を編んでつくった垣。」のことです。

※柴垣(しばがき):「《上代は「しばかき」》柴を編んでつくった垣。しまがき。」(Webサイト『goo国語辞書』の「柴垣」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/99832/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年八月十一日(金)))

※夜色(やしよく):「夜のけしき。夜景。」(『新字源』P232)

※秋節(しゆうせつ(しうせつ)):「秋の季節。」(『新字源』P730)

※往事(おうじ(わうじ)):「過ぎ去った事がら。むかしのこと。」(『新字源』P347)

※追思(=追懐(追懷)(ついかい(ついくわい))、追憶(ついおく)、追想(ついそう(ついさう))):「過去のことや死んだ人の生禅のことを思い起こす。」

※孤斟(こしん):「一人で酒を酌む。」ことです。

●解説:

 今回は、秋の雨の中、故郷を思いやる様子を七言律詩の漢詩にしました。

 これは、私が所属しています漢詩の会の浪速菅廟吟社(なにわかんびょうぎんしゃ)の同じ題の七言絶句の課題詩をまず作って(一句目・二句目・七句目・八句目)、その上で二組の対句(ついく)という語呂合わせの句を更に作って付け加えて、七言律詩としたものです(三句目と四句目、五句目と六句目の二組の対句(ついく))。

 今年は日本各地で長雨となり、旅に出る者も遠くから故郷を思う気持ちがあって、生活の苦しい人の行き詰まりと都合良くいくことを考え、昔馴染みの人の安否を夢の中で尋ねるという有様で、軒の雨垂れで目を覚まし、身体は寒くなり、柴で編んだ垣根の枝が濡れて、夜がより深まり、返信は未だ来ない秋の季節の折に、過ぎ去った事柄を思い返して一人で酒を飲む、という情景を思い浮かべて漢詩を作っていました。

 災害が起きても遠方からは心配が募るばかりで、返事が来るまでは落ち着かないものです。そんな気持ちを全国の方々も感じられたのではないか、そのように思います。今年水害に遭われた方にお見舞いを申し上げます。少しでも早く復旧できるようにと遠方からも願っています。

 私は検査入院から九日に退院して、今回の漢詩は退院後に最初に作った漢詩です。漢詩や填詞を通して世の中のことをしっかりと考えながら、努力を重ねていきます。体調を整えつつ、これからも頑張っていきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

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