漢詩「夏日好景」(七言律詩)

23_夏日好景_2017_08_14.png


●原文:

 夏日好景  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

避 暑 池 塘 向 近 郊  早 朝 碧 藕 眺 芳 苞

禾 田 水 面 成 蛙 市  柳 岸 樹 陰 窺 鳥 巢

暫 案 詩 詞 作 彫 琢  新 添 字 句 行 推 敲

招 涼 滾 滾 淸 泉 響  閑 詠 自 然 方 外 交


●書き下し文:

 題:「夏日(かじつ) 好景(かうけい)」

暑(しよ)を避(さ)けて池塘(ちたう)の近郊(きんかう)に向(む)かひ
早朝(さうてう) 碧藕(へきぐう)の芳苞(はうはう)を眺(なが)む

禾田(くわでん)の水面(すいめん) 蛙市(あし)を成(な)し
柳岸(りうがん)の樹陰(じゆいん) 鳥巢(てうさう)を窺(うかが)ふ

暫(しばら)く詩詞(しし)を案(あん)じて彫琢(てうたく)を作(な)し
新(あら)たに字句(じく)を添(そ)へて推敲(すいかう)を行(おこな)ふ

涼(りやう)を招(まね)く滾滾(こんこん)たる淸泉(せいせん)の響(ひび)き
閑(しづ)かに詠(えい)ず自然(しぜん)の方外(はうぐわい)の交(まじ)はりを

「巢」の新字体は「巣」、「淸」の新字体は「清」
「好(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「塘(たう)」の新仮名遣いは「とう」
「早(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「朝(てう)」の新仮名遣いは「ちよう(小書き文字を使うと『ちょう』)」
「芳(はう)」の新仮名遣いは「ほう」
「苞(はう)」の新仮名遣いは「ほう」
「禾(くわ)」の新仮名遣いは「か」
「柳(りう)」の新仮名遣いは「りゆう(小書き文字を使うと『りゅう』)」
「鳥(てう)」の新仮名遣いは「ちよう(小書き文字を使うと『ちょう』)」
「巢(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「彫(てう)」の新仮名遣いは「ちよう(小書き文字を使うと『ちょう』)」
「添(そ)へて」の新仮名遣いは「添(そ)えて」
「敲(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「行(おこな)ふ」の新仮名遣いは「行(おこな)う」
「涼(りやう)」の新仮名遣いは「りよう(小書き文字を使うと『りょう』)」
「閑(しづ)かに」の新仮名遣いは「閑(しず)かに」
「方(はう)」の新仮名遣いは「ほう」
「外(ぐわい)」の新仮名遣いは「がい」
「交(まじ)はり」の新仮名遣いは「交(まじ)わり」


●現代語訳:

 題:「夏の日の良い景色について漢詩を詠みました」

 暑さを避けようと、池の堤のある市街に近い郊外に向かい、
 早朝には、緑の蓮の花の蕾を眺めていました。

 稲を植えた田んぼの水面では、蛙が群がり鳴くようになり、
 柳を植えた水辺の岸の木陰では、鳥の巣を窺い見ていました。

 暫く詩や韻文(いんぶん:韻を踏んだ散文)を考えて、字句を美しく飾り、
 新たに字句を付け加えて、詩や韻文(いんぶん)の辞句を練っていました。

 涼しさを招く、水が盛んに流れる清らかな泉の水の響きがして、
 静かに自然の世の雑事に煩わされていない所と通じ合った所を漢詩に詠んでいました。


●語注:

(以下、新字源は1994年(平成六年)十一月十日の改訂版を引用しています。)

(以下、海外のWebサイトのURLは、リンクを防止するために「:(コロン)」を全角にしています。)

※好景(こうけい(かうけい)):「よいけしき。」(『新字源』P252)

※池塘(ちとう(ちたう)):「池の堤。」(『新字源』P559)

※近郊(きんこう(きんかう)):「①都の城外の五十里までの地域。②市街に近い郊外。」(『新字源』P994)、ここでは、②の意味で用いています。

※碧藕(へきぐう):「指碧蓮。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「碧藕」の検索結果の(2) < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年八月十三日(日))))、つまり、「緑色のハスを指す。」ということです。

※芳苞(ほうほう(はうはう)):「花蕾。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「芳苞」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年八月十三日(日))))、つまり、「花の蕾。」のことです。

※禾田(かでん(くわでん)):「稻田。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「禾田」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年八月十三日(日))))、つまり、「」のことです。

※稲田(稻田)(とうでん(たうでん)):「いねを植えてある田。」(『新字源』P736)

※蛙市(あし):「かえるが群がり鳴く。」(『新字源』P886)

※柳岸(りゆうがん(りうがん)(小書き文字を使うと「りゅうがん」)):「植柳的水岸。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「柳岸」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年八月十三日(日))))、「柳を植えた水辺の岸。」のことです。

※水岸(すいがん):「水邊陸地。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「水岸」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年八月十三日(日))))、つまり、「水辺の陸地。」のことです。

※詩詞(しし):「詩と韻文(いんぶん:韻を踏んだ散文)。」のことです。

※彫琢(ちようたく(てうたく)):「ほることとみがくこと。転じて、文字の字句を美しくかざること。」(『新字源』P345)

※推敲(すいこう(すいかう)):「詩歌や文章の字句を練ること。唐〔とう〕の賈島〔かとう〕が自作の詩の『僧推月下門』の『推』を『敲(たたく)』にするかどうかで苦心した故事による。〔唐詩紀事〔とうしきじ〕〕」(『新字源』P419)

※滾滾(こんこん):「水がさかんに流れるさま。」(『新字源』P603)

※方外(ほうがい(はうぐわい)):「①世の外。世の雑事にわずらわされない所。②中国より外の地域。夷狄〔いてき〕(異民族)のいる所。③仏道。仏教。世事にかかわらないからいう。」(『新字源』P454)、ここでは①の意味で用いています。


●解説:

 今回は、夏の日の良い景色を詠んだ七言律詩です。

 これは、桐山堂さんのサイト(URL: http://tosando.ptu.jp/ )で九月三日(日)開催を予定しています、第一回目の「桐山堂詩会(旧世界漢詩同好會)」に投稿する予定の七言律詩です。韻目(いんもく:同一の韻に属する文字のグループ)は「下平声三肴」に指定されています(あるいは他の韻目(いんもく)でも可となっています。)。

 暑さを避けるために、池の堤のある市街に近い郊外に向かい、早朝に緑の蓮の花の蕾を眺めていて、稲を植えた田んぼの水面に蛙が群がり鳴いていて、柳を植えた水辺の岸の木陰では鳥の巣を窺い見ていて、暫く詩や韻文(いんぶん:韻を踏んだ散文)を考えて字句を美しく飾り、新たに字句を加えて詩や韻文(いんぶん)の辞句を練り、涼しさを招く、水が盛んに流れる清らかな水の響きがして、静かに自然の世の雑事に煩わされていない所と通じ合った所を漢詩に詠んでいました。

 今は夏真っ盛りのお盆の時期ですので、漢詩の中で夏の日の景色の美しさと共に、涼しさを少しでも表現できていればいいなと思います。これからも暑さと体調に気を付けて頑張っていきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント

  • 泥舟

    近年 近代化に伴い 扇風機からクーラーの時代に変わりました
    今や クーラーのない生活は考えられないほどです
    しかし ほんの少し前までは この日本でさえ 団扇でしたね
    このような漢詩の風景も今は昔ですね
    とても 心が涼みました〜
    素敵な漢詩です
    2017年08月15日 02:10
  • 佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

    > 泥舟さん

    こんにちは。温かいコメントをありがとうございます。

    はい。今では家にいる時はクーラーのお世話になっていて、
    熱中症の対策の上でも、クーラーが必要になっており、
    少し前とは時代が違うなと改めて思います。

    以前は今より涼しいこともありますが、
    こうした自然のある所で涼んだ頃があったのを
    懐かしく感じます。

    早朝の蓮の蕾、水田で群がり鳴く蛙、
    柳の木の木陰にある鳥の巣、そして清らかな泉の水と、
    普段とは違う韻目で言葉を考える中で浮かんだものが
    これらのものです。特に柳の木の鳥の巣などは、
    両親の郷里で見かけた白鷺を思い出します。
    水辺での涼しい景色、この中にも見られる
    「故郷で見た光景」というものが涼しさを呼ぶのかな、
    そんな風に考えていました。

    涼しい景色を求めて遠くへ出かけるのも良いなと
    改めて思いました。今は体調を整えながら頑張っていきます。
    泥舟さんも暑さ等に気を付けてお過ごし下さい。

    良い金曜日の午後をお過ごし下さい。
    2017年08月18日 15:30