填詞「新秋夜坐(倣拝星月慢)」

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●原文:

 新秋夜坐(倣拜星月慢)  玄齋  佐村 昌哉  大阪市

 半夜新涼,零露漙漙,竹藪江邊端坐。喞喞孤蛩,聽橫江輕舸。月明下,列宿、淸輝燦爛垂野,纍纍星河多夥。欲盡吟情,照詩書燈火。

 ●

 已秋聲、夏節懷災禍。過艱難、困苦如枷鎖。依約漸來涼意,句刪修煩瑣。映淸流、一隻舟停柁。殘螢影、治水風光可。山中景、危險依前,共前途坎坷。


●書き下し文:

 題:「新秋(しんしう) 夜坐(やざ)(拜星月慢(はいせいげつまん)に倣(なら)ふ)」

半夜(はんや)の新涼(しんりやう),
漙漙(たんたん)たる零露(れいろ),
竹藪(ちくそう)の江邊(かうへん) 端坐(たんざ)す。

喞喞(しよくしよく)たる孤蛩(こきよう),
江(かう)に橫(よこ)たはる輕舸(けいか)に聽(き)く。

月明(げつめい)の下(もと),
列宿(れつしゆく)、
淸輝(せいき) 燦爛(さんらん)として野(の)に垂(た)れ,
纍纍(るいるい)たる星河(せいか) 多夥(たか)たり。

吟情(ぎんじやう)を盡(つ)くさんと欲(ほつ)し,
詩書(ししよ)を燈火(とうくわ)に照(て)らす。

 ●

已(すで)に秋聲(しうせい)、
夏節(かせつ)の災禍(さいくわ)を懷(おも)ふ。

艱難(かんなん)を過(す)ぎ、
困苦(こんく) 枷鎖(かさ)の如(ごと)し。

依約(いやく)として漸(やうや)く來(きた)る涼意(りやうい),
句(く)の煩瑣(はんさ)なるを刪修(さんしう)す。

淸流(せいりう)に映(えい)ず、
一隻(いつせき)の舟(ふね) 柁(かぢ)を停(とど)む。

殘螢(ざんけい)の影(かげ)、
治水(ちすい) 風光(ふうくわう) 可(か)なり。

山中(さんちゆう)の景(けい)、
危險(きけん) 依前(いぜん)たりとも,
前途(ぜんと)の坎坷(かんか)を共(とも)にせん。

「拜」の新字体は「拝」、「邊」の新字体は「辺」、「橫」の新字体は「横」、「輕」の新字体は「軽」、「聽」の新字体は「聴」、「淸」の新字体は「清」、「纍」の新字体は「累」、「盡」の新字体は「尽」、「燈」の新字体は「灯」、「聲」の新字体は「声」、「懷」の新字体は「懐」、「來」の新字体は「来」、「淸」の新字体は「清」、「殘」の新字体は「残」、「螢」の新字体は「蛍」、「險」の新字体は「険」
「秋(しう)」の新仮名遣いは「しゆう(小書き文字を使うと『しゅう』)」
「倣(なら)ふ」の新仮名遣いは「倣(なら)う」
「涼(りやう)」の新仮名遣いは「りよう(小書き文字を使うと『りょう』)」
「江(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「橫(よこ)たはる」の新仮名遣いは「橫(よこ)たわる」
「情(じやう)」の新仮名遣いは「じよう(小書き文字を使うと『じょう』)」
「火(くわ)」の新仮名遣いは「か」
「禍(くわ)」の新仮名遣いは「か」
「懷(おも)ふ」の新仮名遣いは「懷(おも)う」
「漸(やうや)く」の新仮名遣いは「漸(ようや)く」
「修(しう)」の新仮名遣いは「しゆう(小書き文字を使うと『しゅう』)」
「流(りう)」の新仮名遣いは「りゆう(小書き文字を使うと『りゅう』)」
「柁(かぢ)」の新仮名遣いは「かじ」
「光(くわう)」の新仮名遣いは「こう」


●現代語訳:

 題:「秋の初めに夜遅くまで寝ないで坐っている様子を、宮廷歌謡の替え歌の填詞(てんし)の一つである『拝星月慢(はいせいげつまん)』に基づいて詠みました」

 夜中に秋の初めの涼しさを感じる頃、
 頻りに露が落ちている,
 竹藪(たけやぶ)のある川の畔(ほとり)で正しく坐っていました。

 落ちる露が頻りにある風にそよぐ竹の姿があり、
 一匹のコオロギがか細く鳴いているのを、
 川に横たわる足の速い舟の方で聴きました。

 月明かりの下で、
 居並ぶ星座の、
 清らかな光が鮮やかに輝いて、野原に垂れ下がっているようであり、
 天の川の多くの星々が重なり合っているようでした。

 詩歌を作ろうとする思いを尽くそうと思い、
 書物を灯火に照らしていました。

  ●

 既に秋の声がしている時に、
 夏の時節にあった災いのことを思うのです。

 難儀な所は過ぎていても、
 苦しみ悩む様子は、まるで首枷や鎖に繋がれているようでした。

 微かに次第にやって来る涼しい趣の中で、
 詩句の煩わしくて細々している字句を推敲して正しくしていました。

 清らかな水の流れに映る、
 一隻の舟は、柁(かじ)を止めていました。

 秋になってもまだ生き残っている蛍の光が見えて、
 治水工事によって、景色は良くなっていました。

 山の中の景色は、
 危険が元のままにあるけれども、
 これから先の道のりの行き悩む所を共にしようと思いました。


●語注:

(以下、『新字源』は1994年(平成六年)十一月十日発行の改訂版を引用したものです。)

(以下、海外のWebページのURLは、リンクを防止するために、「:(コロン)」を全角にしています。)

※新秋(しんしゆう(しんしう))(小書き文字を使うと「しんしゅう」):「1 秋の初め。初秋。2 陰暦七月の異称。」(Webサイト『goo国語辞書』の「新秋」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/114422/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年八月二十七日(日)))

※夜坐(やざ):「1 夜遅くまで寝ないで座っていること。2 仏語。初夜(しょや)、すなわち午後8時ごろの座禅。」(Webサイト『goo国語辞書』の「夜坐」の検索結果 < https://dictionary.go.ne.jp/jn/221701/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年八月二十七日(日)))、ここでは、1の意味で用いています。

※半夜(はんや):「①よなか。②一夜の半分。」(『新字源』p.139)、ここでは、①の意味で用いています。

※新涼(しんりよう(しんりやう))(小書き文字を使うと『しんりょう』):「秋の初めのすずしさ。」(『新字源』p.453)

※漙漙(たんたん):「つゆのしげきさま。」(『詩語辞典(しごじてん)』p.204、河井酔荻編、東京松雲堂書店、昭和五十六年(1981年)十二月二十日発行の初版)

※零露(れいろ):「落ちるつゆ。」(『新字源』p.1086)

※竹藪(ちくそう):「竹子豐茂的地區。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「竹藪」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年八月二十九日(火))))、つまり、「竹が豊かに茂っている地区。」のことです。ここでは、「竹藪(たけやぶ)」として訳します。

※江辺(江邊)(こうへん(かうへん)):「川のほとり。」のことです。

※端坐(たんざ):「正しくすわる。正座〔せいざ〕。危坐〔きざ〕。」(『新字源』P.747)

※喞喞(しよくしよく)(小書き文字を使うと『しょくしょく』):「①小さい声。ひそかな声。②鳥や虫の細い声。」(『新字源』p.190)、ここでは、②の意味で用いています。

※孤蛩(こきよう)(小書き文字を使うと「こきょう」):「一匹のコオロギ。」のことです。

※軽舸(輕舸)(けいか):「足の速い舟。舸は、大きい舟。」(『新字源』p.983)

※列宿(れつしゆく)(小書き文字を使うと「れっしゅく」):「居ならぶ星座。」(『新字源』p.113)

※清輝(淸輝)(せいき)(=清暉(淸暉)(せいき)):「日の清らかな光。」(『新字源』p.589)、ここでは、「星の清らかな光。」のことです。

※燦爛(さんらん):「あざやかにかがやくさま。」(『新字源』p.629)

※累累(纍纍)(るいるい):「①物が重なり合っているさま。②しばしば。かさねがさね。」(『新字源』p.776)

※星河(せいか)(=星漢(せいかん)):「天の川。銀河。」(『新字源』p.629)

※多夥(たか):「多い。」という意味です。

※吟情(ぎんじよう(ぎんじやう)):「詩歌を作ろうとする思い。」(『新字源』p.170)

※詩書(ししよ)(小書き文字を使うと「ししょ」):「(1)指『詩經』和『尚書』」(2)泛指一般書籍、詩文」(Webサイト『漢典(かんてん)』の「詩書」の検索結果 < http://www.zdic.net/c/7/fd/269303.htm > (アクセス日:平成二十九年八月二十六日(土)))、つまり、「(1)『詩経(しきょう)』と『尚書(しょうしょ:『書経(しょきょう)』)』を指す。(2)広く書物や詩や文章一般を指す。」ということです。ここでは、(2)の意味で用いています。

※書籍(しよせき)(小書き文字を使うと「しょせき」):「書物。本。」(『新字源』p.814)

※詩文(しぶん):「詩と文章。漢詩と漢文。また、文学的作品。」(Webサイト『goo国語辞書』の「詩文」の検索結果 < https://dictionary.goo.ne.jp/jn/100310/meaning/m0u/ > (アクセス日:平成二十九年八月二十六日(土)))

※秋声(秋聲)(しゆうせい(しうせい))(小書き文字を使うと「しゅうせい」):「秋の声。秋風のものさびしげな音や、木の葉の散る音をいう。」(『新字源』p.730)

※夏節(かせつ):「①夏の時節。②陰暦五月五日の節句。端午節。」(『新字源』p.230)、ここでは、①の意味で用いています。

※災禍(さいか(さいくわ)):「わざわい。」(『新字源』p.616)

※艱難(かんなん):「なやみ。苦しみ。難儀。」(『新字源』p.840)

※困苦(こんく):「苦しみなやむ。」(『新字源』p.204)

※枷鎖(かさ):「くびかせと、くさり。罪人をつなぐ刑具。」(『新字源』p.497)

※依約(いやく):「①たより結びつく。②かすかなさま。ほのかなさま。③よく似ている。」(『新字源』p.58)、ここでは、②の意味で用いています。

※涼意(りようい(りやうい))(小書き文字を使うと「りょうい」):「すずしいおもむき。」
(『新字源』p.592)

※煩瑣(はんさ)(=煩砕(煩碎)(はんさい)):「わずらわしくこまごましている。」(『新字源』p.1103)

※刪修(さんしゆう(さんしう))(小書き文字を使うと「さんしゅう」):「文章の辞句をけずり正す。」(『新字源』p.113)、つまり、「文章の字句を推敲して正す。」ということです。

※清流(淸流)(せいりゆう(せいりう)):「①清らかな水の流れ。②行ないの高潔な人。」(『新字源』p.590)、ここでは、①の意味で用いています。

※残蛍(殘螢)(ざんけい):「秋になってもまだ生き残っている蛍。」のことです。

※風光(ふうこう(ふうくわう)):「①草木が風に揺られて光ること。②けしき。③すぐれたおもむき。④おもかげ。⑤光栄。」(『新字源』p.1110)

※依前(いぜん):「照舊;仍舊。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「依前」の検索結果 < http://sou-yun.com/QueryAllusion.aspx > (アクセス日:平成二十九年八月二十七日(月))))、つまり、「これまで通りである、依然〔いぜん〕として〔もとのまま〕。」という意味です。

※坎坷(かんか):「①行きなやむさま。②世に受けいれられないさま。不遇で志を得ないさま。(『新字源』p.212)ここでは、①の意味で用いています。


●解説:

 今回は、秋の初めに夜遅くまで寝ないで坐っている様子を、宮廷歌謡の替え歌である填詞(てんし)の一つである、拝星月慢(はいせいげつまん)に基づいて詠んだものです。

 この填詞(てんし)は、前半、後半に分かれていまして、特に後半部分では、「、」(逗点(とうてん:填詞(てんし)の中では、その句だけで完結した一句ではなく、次の句に繋げて解釈する場合の句読点))を多用しているもので、とても詠んでいてしんみりするものです。

 秋の初めの涼しさを感じる夜中に、露が頻りに落ちている、竹藪(たけやぶ)のある川の畔(ほとり)で正しく坐り、横たわる足の速い舟の中からは一匹のコオロギの鳴き声がしていて、月明かりの下で清らかな光を放つ星座達が野原に垂れ下がるように鮮やかに輝き、天の川の星々が重なり合う様子が見えていて、その中で詩歌を作ろうとする思いを尽くそうと、書物を灯火に照らして読んでいて、そして、更に次のように詠み進めていきました。

 秋の声がする中で、夏の時節にあった災害を思い出し、難儀な所は過ぎていても、まだ首枷や鎖に繋がれているように苦しみ悩んでいて、微かに次第にやって来る涼しい趣の中で、詩句を推敲して正しくしていて、清らかな水の流れに映る舟は柁(かじ)を止め、秋になってもまだ生き残っている蛍の光が見えて、治水工事によって景色が良くなったことを知り、山の中の景色は危険が以前のままにあったけれども、これから先の道のりの行き悩む所を共にしようと思った、という情景を思い浮かべて填詞(てんし)を詠んでいました。

 今年も起きた災害で被害に遭われた方々、災害からの復旧ですっかり夏を過ごされている方々に、お見舞いを申し上げます。このような自然の風景がいち早く戻りますように、何より早く被災地での生活が出来る限り元通りになる日が来ますようにと願っています。

 遠方から心配して、漢詩や填詞(てんし)を作っている病気の身の上ですが、きちんと心を世の中に向けて、何をすべきかを考えながら過ごしていこうと思います。これからもやがては世の中で頑張っていけるように努力を続けていきます。


●付録:

 『欽定詞譜(きんていしふ)』と『龍楡生詞學四種(りゅうゆせいしがくよんしゅ)・唐宋詞格律(とうそうしかくりつ)』より、この填詞(てんし)、『拝星月慢(はいせいげつまん)』の詞譜(しふ:詞牌(しはい))という譜面は、以下の通りです。

○:平声(ひょうしょう)。
●:仄声(そくしょう)。
△:基本は平声(ひょうしょう)ですが仄声(そくしょう)でも可。
▲:基本は仄声(そくしょう)ですが平声(ひょうしょう)でも可。
■:仄声(そくしょう)の押韻(おういん:韻を踏む)。

「,」:句点(くてん)。句の区切り。
「。」:押韻(おういん)。韻を踏む箇所。
「、」:逗点(とうてん)。一句で意味が完結しない場合、次の句へ繋げるときの句読点。

●●○○,△○△●,▲●○○▲●。●●○○,●○○○■。●○●,●●、○○●●○●,●●△○○■。▲●△○,●○○○■。

 ●(左の「●」は前半と後半の区切りです。)

 ●○○、●●○○■。△○▲、●●○○■。▲●●▲○△,●○○○■。●○○、●●○○■。○○●、▲●○○■。△▲●、▲●○○,●○○●■。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

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